SNSで批判されたときに「証明してやる」と動くのは、火を消す行為ではなく、自分で燃料を足す行為です。この記事を読めば、証明しようとすると逆効果になる3つの理由と、批判されたときに信頼を落とさずに返すための具体的な方法が分かります。
「誤解されているから、ちゃんと説明したい」
「言われっぱなしは悔しいから、反論して分かってもらいたい」
批判を受けたとき、多くの人がこう考えます。ところが実際には、説明すればするほど、反論すればするほど、信頼が落ちていくことが起こります。
この記事では、最近SNSで大きく話題になった、ある実業家の方の「証明するための長時間ライブ配信」という出来事を題材に、何が起きたのかを構造として整理します。個人を責めるためではなく、同じ失敗を避けるための材料として扱います。
そしてここが重要なのですが、この構造は有名人だけの話ではありません。職場の遅刻の言い訳や、SNSでのちょっとした反論と、まったく同じ形をしています。つまり誰にでも起こります。
私は全国の学校・企業でSNS・デジタルリテラシーの講演を行っています。その立場から、炎上を「誰が愚かだったか」ではなく「人はこういうときこうなる」という構造の話として考えていきたいと思います。
何が起きたのか
まず事実を整理します。
ある実業家の方が、1日30分の睡眠を約17年続けていると主張し、睡眠時間を短くするプログラムを提供していました。8月に医師との対談をきっかけに、その主張をめぐって批判が広がります。本人は、誹謗中傷が1万件を超えたと述べています。
そこで9月20日、その主張を証明するために、7日間の24時間ライブ配信を始めました。
初日の同時視聴は3万人ほど。ところが2日目、施術を受けている最中に約27分間、目を閉じていびきをかく場面が拡散されます。本人は「マイクロスリープが10回ほど入っただけで、寝ないチャレンジではない」と説明しました。
3日目にも別の施術中に同じ場面が拡散されます。4日目になると、本人は「仮眠は何回でもOK」と説明を始めました。つまり途中でルールが変わりました。
5日目には、画面外に出ていた約15分について検証され、「寝ていたでいいです」と認めます。同時視聴は12万人を突破。この辺りで「30分睡眠にこだわりすぎた」「今後は仮眠を取り入れる」と方針転換を表明しました。
6日目には映ってはいけないものが映って配信が一時中断。そして最終日、「喉以外はパーフェクトに健康」という形で締めました。
なぜ「証明」が逆効果になったのか
ここからが本題です。
この方に悪意があったとは思いません。批判されて悔しくて、それなら見せてやると思ったのでしょう。あれだけ拡散されれば、その気持ちは人間として分かります。
しかし結果として、配信を始める前よりも批判が増えました。理由は3つあると考えています。
1. 「証明する」と宣言した瞬間、採点者が視聴者になる
配信前は、その主張が本当かどうかを判断できる人はいませんでした。本人が言っているだけの状態です。
ところが「証明します」と言って24時間カメラを回した瞬間、12万人が採点者になりました。
しかも採点者は、寝ている時間だけを探します。1週間のうち23時間半起きていたとしても、寝ていた27分だけが切り抜かれて拡散されるのです。
自分で自分を採点される場を作ってしまった、ということです。
2. 言い訳が事実より先に出てしまった
27分いびきをかいたことは、映像に残っている事実です。
ここで「寝ていました、すみません」と言えば、火はそこまで大きくならなかったかもしれません。けれど出てきたのは「マイクロスリープが10回」という説明でした。
マイクロスリープは、通常は数秒から十数秒の浅い眠りを指す言葉です。それを27分に当てはめたので、「それは普通に寝ているでしょう」というツッコミが殺到しました。
事実の前に説明を置くと、説明が言い訳として受け取られます。
3. 途中でルールを変えた
最初は「30分睡眠を証明する」だったものが、4日目には「仮眠は何回でもOK」になり、5日目には「30分にこだわりすぎた」になりました。
見ている側からすると、ゴールを動かしたように見えます。証明すると言った以上、ルールは最初に決めたものを守らなければ、証明そのものが意味をなくしてしまう。そして「ルールを変えた」という事実が、また新しい燃料になります。
これは日常の言い訳とまったく同じ構造です
ここが今回いちばんお伝えしたいところです。
「証明しようとして燃料を足す」は、日常のあちこちで起こります。
たとえば仕事で遅刻したとき。「すみません、寝坊しました」で終わればいいのに、「電車が遅れていて、しかも昨日から体調も悪くて、あとアラームが」と言い出す。言えば言うほど、言い訳をしているなと思われます。
SNSでも同じです。指摘されたときに「それは全然違って、こうこうこうで」と長文で反論する人がいます。反論すればするほど、その反論の中の一言がまた切り取られ、信頼が落ちていきます。
私も毎日発信している側なので、批判的なコメントが来たときに「分かってもらいたい」と長めに返したくなる気持ちは正直よく分かります。SNSの相談でも、反論したら余計にこじれたという話はよく聞きます。
人は批判されると、事実を認めることよりも自分を守ることが先に出ます。それは自然なことです。けれどSNSでは、その自分を守ろうとした言葉が全部記録され、都合のいい部分だけが切り抜かれて拡散されてしまう。
だから、笑ってこの件を見ている人にも言いたいのです。「証明してやる」と思った瞬間が、いちばん危ない。
批判されたとき、どう返すのが正しいのか
黙っているしかないのか、というとそうではありません。私の考えは3つです。
1. 「証明」ではなく「実績」で返す
証明とは、今この場で見せることです。これは採点者を増やし、不利な切り抜きを生むのでやめたほうがいいのです。
実績とは、積み上げてきたもので返すこと。
今回の例で言えば、17年続けていることの信憑性を疑われたなら、そのプログラムを受けた方がどう変わったのかという実績を淡々と出したほうが、ずっと良かったのではないかと思います。
私自身、偏差値37から一橋大学に入ったという話をよくします。これを「本当なのか、学歴詐称ではないか」と言われたとして、「今から模試を解いて証明してやる」は成り立ちません。何年も前のことですから、数学も社会もだいぶ忘れています。変に切り抜かれて、また燃えるだけです。
合格したという実績があるから話せる。卒業証書もある。だから証明しようとするのではなく、すでにある実績で話せばいいのです。
2. 事実は先に、短く認める
「寝ました」「配慮が足りませんでした」。これを最初に一言で言えばいいのです。説明はその後です。
順番が逆になると、説明が全部言い訳に聞こえます。順番が正しければ、まったく同じ説明が誠実な補足に聞こえます。中身ではなく、順番の問題なのです。
遅刻の例で言えば、「すみません、寝坊しました。昨日残業で遅くなって、寝る時間が遅くなってしまいました。ごめんなさい」。これが逆で、「昨日ちょっと残業が」から始まると、途端に言い訳に聞こえます。同じ情報なのに、です。
3. ルールを決めたら、途中で動かさない
自分に不利な結果が出ても、一度決めたルールは守ったほうがいい。そのほうが、負けても信頼が残ります。
「30分睡眠は無理でした。でも23時間起きている生活はこういう感じです」と言い切っていたら、受け取られ方はかなり違ったはずです。「30分と言っていましたが、実際は1時間でした」でも十分だったと思います。
炎上を見るときは、叩く側にも笑う側にもならない
最後にひとつ付け加えます。
先日、中学校で講演をした際に「最近何が流行っているの」と生徒に聞いたら、この方の名前を叫んだ生徒がいました。子どもたちにも届いている話題なのだと驚きました。
そして最終日、目を赤くしながら「体力はあり余っている」と話す姿を見て、私は笑えませんでした。
この方は逃げなかったのです。批判されて、証明しようとして、失敗して、それでも7日間やり切りました。やり方は間違っていたかもしれませんが、やらないことを選ばなかった。
私も発信をして、講演をして、電子書籍も出しているので、批判が届いたことはあります。私の場合は数が少ないので、削除してブロックすれば終わる規模です。あれだけ大勢に囲まれれば、プレッシャーの大きさは比べられません。
だから今回の話は、「この人が愚かだった」という話ではありません。批判されたとき、人はみんなこうなる。だからこうしないほうがいい、という話です。
炎上を見るときに、叩く側にも笑う側にもならず、「自分だったらどうするか」という視点を持つ。頭の中で考えるだけでかまいません。それが、SNSで失敗しないいちばんのコツだと思っています。
まとめ
- 「証明するための長時間配信」は、2日目に27分寝てしまい、その説明の仕方でまず燃えた
- 証明が逆効果になった理由は3つ。採点者を自分で増やした、言い訳が事実より先に出た、途中でルールを変えた
- これは日常の言い訳と同じ構造。「証明してやる」と思った瞬間がいちばん危ない
- 批判されたら、証明ではなく実績で返す。事実は先に短く認める。ルールは動かさない
- 炎上を見るときは、叩く側にも笑う側にもならず、自分ならどうしたかを考える
批判されたときに何かしなければと焦る気持ちは、誰にでもあります。その焦りが、ほぼ必ず「証明」という形をとって出てくる。そこを知っておくだけで、対応はかなり変わります。
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