著作権のトラブルは、法律を知らないから起きるのではありません。「ネットにあるものは使っていいもの」という感覚が、誰の中にもあるからです。この記事を読めば、大企業の公式アカウントでも同じことが起きた理由と、何かを使う前に確認すべき3つのことが分かります。
「ネットの画像を勝手に使ってはいけません」
子どもにこう教えている大人が、会社の資料にネットの画像を貼り、プレゼンにフリー素材ではない写真を使っている。知識として知っていることと、実際にやらないことは別なのです。
この記事では、2026年9月に大手飲料メーカーの公式アカウントで起きた出来事を題材に、何が問題だったのかを整理します。子ども向けの説教ではなく、大人も同じ構造の中にいるという前提から考えていきます。
興味深いのは、この件が法律違反として燃えたわけではないことです。SNSの正式な引用機能が使われていました。それでも燃えました。つまり争点は、法律ではなく敬意のほうにありました。
私は全国の学校・企業・自治体でSNS・デジタルリテラシーの講演を行っています。学校で著作権の話をすると、「画像を勝手に使ってはいけない」は中学生にとってもう聞き飽きた話です。だからこそ、大企業が同じことをやって謝った、という入り口からお伝えしたいと思います。
何が起きたのか
2026年9月18日、ある大手飲料メーカーの人気炭酸飲料の公式Xが、ファンが描いた二次創作のイラストを使って投稿しました。
この商品のロゴは顔の部分だけで、胴体がありません。そこで公式は、その顔のロゴと、あるイラストレーターの方が描いた胴体のイラストを、Xの引用機能を使って組み合わせました。タップすると2つがつながって1人の人物に見える、という仕掛けです。
そのキャプションが、「タップするとつながる素材だけ作りました」という文言でした。
問題は、そのイラストレーターの方のプロフィールに「AI学習禁止・無断使用禁止」と明記されていたことです。
批判が広がりました。個人の作品を企業の宣伝に無断で使っている、素材として扱うのは配慮に欠ける、という声です。一方で「引用機能を使っただけなら問題ないのでは」という擁護もありました。
翌日9月19日、公式が投稿を削除して謝罪しました。「極めて配慮を欠いた表現があり、引用元の方をはじめ、投稿をご覧になった多くの皆様に不快な思いをおかけしたことを心よりお詫び申し上げます」という内容で、再発防止の体制整備も表明しています。イラストレーターの方も、公式から直接謝罪を受けたことをXで報告しています。
なぜ燃えたのか。法律ではなく「敬意」の問題だった
擁護側の「引用機能を使っただけでしょう」という意見には、一定の理があります。Xの引用ポストは正式な機能で、元の投稿へのリンクも残ります。法律上の無断転載とは違います。
ではなぜ燃えたのか。私は3つの要素があると考えています。
1. 「素材」という言葉
引用したこと自体よりも、それを「素材」と呼んだことが引っかかったのだと思います。
素材とは、自由に使っていい部品という意味を含む言葉です。人が時間をかけて描いた絵を、部品として扱った。作者にとっては「あなたの作品はうちの企画のパーツです」と言われたのと同じです。それはこたえます。
2. 企業が個人の作品を宣伝に使った
友達同士で引用し合うのと、売れている商品の公式アカウントが個人の絵を宣伝の核に使うのは、まったく違う話です。力の差があります。
しかも作者は無断使用禁止と書いていました。それを読んでいなかったのか、読んでいて無視したのか。どちらにしても、相手を確認していないということです。
3. ファンの好意を、ただの資源にしてしまった
二次創作は、その商品が好きだからファンが描いてくれるものです。企業にとっては、お金では買えない財産です。
それを「素材」と呼んで使えば、好意が資源として扱われたように見えてしまいます。
法律の問題というより、相手への敬意の問題として燃えた。ここが大事なところだと思います。
なぜ大企業の公式アカウントが、こうなってしまうのか
担当者が悪い人だったから、ではないと思います。
「ネットにあるものは使っていいもの」という感覚が、誰の中にもあるからです。
「ネットで見つけた画像を勝手に使っていいと思う?」と聞かれたら、今の中学生はほぼ全員「だめ」と答えます。知識としては知っています。
でも実際はどうでしょうか。好きなキャラクターの画像をアイコンにする。友達が撮った写真を勝手にストーリーに上げる。歌詞をそのまま投稿する。知っていることと、やらないことは別なのです。
大人も同じです。会社の資料にネットの画像を貼る。プレゼンにフリー素材ではない写真を使う。SNSの企画でファンの投稿を「みんなの投稿」として使う。最近は生成AIも絡んで、さらに複雑になっています。
相手の顔が見えないから、借りている感覚が消える
なぜこうなるのか。ネットはコピーが簡単で、元の人の顔が見えないからです。
本を破って持ち帰るのはさすがにためらいますが、右クリックで保存はためらいません。相手が見えないから、「借りている」という感覚がなくなるのです。
今回の件は、その「相手が見えなくなる感覚」が企業の公式アカウントでも起きた、ということです。子どもに気をつけなさいと言っている大人が、同じ構造の中にいます。
何かを使う前に考えるべき3つのこと
1. 「誰が作ったのか」を一度だけ見る
画像だろうが文章だろうがイラストだろうが、作った人がいます。
その人のプロフィールを見る。無断使用禁止と書いてあったら使わない。書いていなくても、「この人は自分の作品がこう使われて嬉しいだろうか」と1秒だけ考える。
今回の件は、この1秒があれば防げたはずです。プロフィールに書いてあったのですから。確認を怠っていたのだとすれば、非常にもったいない炎上でした。
2. 「引用」と「利用」を分ける
この人の投稿が面白いから紹介したい。これは引用です。
この人の絵をうちの企画に組み込みたい。これは利用です。
引用では、元の人が主役であり続けます。利用では、自分が主役になり、相手が部品になります。後者には許可が必要です。
引用機能を使っていても、中身が利用であれば、それは利用です。今回も「引用機能だからいい」という声がありましたが、実態は利用でした。
3. 好意は、返さないと減る
ファンが二次創作を描いてくれる。お客さんが写真を投稿してくれる。これは好意です。
好意は感謝で返せば増えますが、素材扱いすれば減ります。
もし「素敵なイラストを描いてくださった方に許可をいただいて、つなげてみました」と書いていたら、逆に絶賛されていた可能性もあると思うのです。
同じ企画でも、言葉と順番が違うだけで、まったく違う結末になります。
私自身も、作る側であり使う側です
最後に自分の話をします。
私は毎日SNSで発信し、YouTubeもやり、電子書籍も出しています。言うなれば、作ったものを出す側の人間です。
自分の文章や動画が、知らないところで素材として使われていたら、やはりもやもやすると思います。
でも同時に、私も使う側です。ニュースを引用し、調査の数字を引用します。この記事を書くための台本も、間違いがないようにいろいろな記事を参考にして作っています。
だから自分なりのルールとして、「元の人が見て嫌な気持ちにならないか」を考えるようにしています。法律で定められているからではなく、自分がされたら嫌だからです。
著作権は法律の話に見えて、実は「相手を想像できるか」という話であることが多い。それは子どもだろうが、大人だろうが、大企業だろうが、まったく同じです。
まとめ
- 大手飲料メーカーの公式Xが、ファンの二次創作を「素材」と呼んで投稿し、翌日に削除・謝罪した。作者は無断使用禁止と明記していた
- 燃えたのは法律というより敬意の問題。「素材」という言葉、企業が個人の作品を宣伝に使ったこと、ファンの好意を資源にしたこと
- 「ネットにあるもの=使っていいもの」という誤解は子どもだけではない。相手の顔が見えないから借りている感覚が消える
- 使う前に、誰が作ったのかを一度見る。引用と利用を分ける。好意は感謝で返す
- 著作権は法律の話に見えて、相手を想像できるかの話であることが多い
子どもに著作権を伝えるときは、ぜひこの入り口から始めてみてください。大企業でもやってしまう。だからみんなで気をつけましょう、という話のほうが、ずっと届きます。
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