「似ていると感じること」と「パクリだと断定すること」は、まったく別の行為です。この記事では、あるアイドルグループのミュージックビデオが先輩グループのMVに似ているとSNSで話題になった騒動を題材に、公式情報が出ていない段階で私たちはどう考え、どう発言すべきか、そしてファン同士が傷つけ合わないためのSNSとの向き合い方を解説します。
「これはさすがに似すぎている」
「パクリだと言われて、推しが傷つけられているようで悔しい」
「どっちも好きなのに、ファン同士が争っていてつらい」
話題になった作品をめぐって、こうした気持ちを抱いたことがある人は多いのではないでしょうか。
この記事では、どちらが正しいかを決めるのではなく、「確認できる事実」と「個人の感想」と「事実の断定」を切り分けて整理します。この切り分けができるようになると、SNSで強い言葉に流されにくくなり、疑問を持ちながらも誰かを攻撃せずにいられるようになります。
意外かもしれませんが、「公式が何も言っていないから、現時点では分からない」という場所に立ち続けること自体が、立派なSNSリテラシーです。分からないことを勝手に埋めて断定してしまうことこそ、SNSで炎上が拡大する最大の原因だからです。
私は全国の学校・企業でSNS・デジタルリテラシーの講演を行っている立場から、また小学生の頃から嵐が大好きな一人のファンとして、この騒動を「SNSとの向き合い方」の話として考えていきたいと思います。
何が起きているのか?まず確認できる事実を整理する
話題になっているのは、女性アイドルグループ「=LOVE(イコールラブ)」の新曲「夢の続き」のミュージックビデオが、嵐の楽曲「Five」のMVに似ているのではないか、という指摘です。
嵐の「Five」は2026年3月に公開された楽曲です。MVは、嵐の5人を乗せたバスが一本道を走る場面から始まります。10周年のときのバスとつながっているストーリー性のある演出で、5人が車内や旅先で笑い合う、嵐らしい自然体の姿が描かれています。
一方、=LOVEの「夢の続き」のMVは2026年8月25日に公開されました。国立競技場で初めてライブを行ったグループが、次の夢である東京ドームへ向かう物語で、旅をするメンバーの姿、国立競技場でのダンス、バスの中で楽しそうに過ごす場面などで構成されています。
両方を見比べると、たしかに共通点はあります。グループの絆をテーマにしていること、バスで旅をすること、車内でメンバーが仲良く過ごす自然な表情、過去と未来をつなぐ作品であること。嵐のファンが「Five」を思い出すこと自体は不自然ではないと思います。
ただし、現時点で制作側から「嵐のMVを参考にした」「オマージュである」という公式な情報は確認できていません。盗用したという事実も確認されていません。SNSでかなり話題になっているにもかかわらず、公式からの声明は出ていないのです。
つまり、今の段階で私たちが言えるのは「似ていると感じる部分があるよね」というところまでです。
「似ていると感じる」と「意図的に真似した」は同じではない
ここで、はっきりと分けなければいけないことがあります。「似ていると感じた」という感想と、「意図的に真似した」という事実認定は、イコールではありません。似ているかどうかは映像を見た一人ひとりが判断できますが、制作側が何を参考にし、どんな意図でバスを選んだのかは、制作に関わった人にしか分かりません。
冷静に考えてみると、「夢の続き」は国立競技場から東京ドームへ向かう物語です。移動を表す手段としてバスを選ぶのは不自然ではありません。タクシーではメンバーの人数が乗りませんし、飛行機や新幹線という場面でもないでしょう。複数人のグループが旅をしながら仲の良さを見せる演出も、嵐のMVに始まった話ではなく、多くの映像作品で使われてきたものです。一方で、場面の重なり方を見て「偶然だけでは説明できないのではないか」と感じる人がいるのも分かります。
大事なのは、疑問を持つことと、まだ確認されていないことを事実として拡散することは違う、ということです。「私は似ていると思った」は個人の感想です。しかし「=LOVEが嵐を盗作した」と断定するには、根拠が必要です。
以前から嵐を参考にしていた事実は、断定の材料になるのか
今回、話がさらに大きくなった理由の一つに、=LOVEが以前から嵐を参考にしていたという情報があります。
2026年6月に=LOVEが国立競技場でライブを行った際、メンバーが事前に嵐のライブ映像を見て学んでいたことが報じられています。国立競技場でワンマンライブを行えたアーティストは限られており、毎年のように公演を重ねてきた嵐の映像を参考にするのは自然なことです。実際にライブを見たファンからも「嵐へのリスペクトを感じた」という反応が出ていますし、=LOVE側も先輩から学んだことを隠していません。
優れた先輩の作品から学ぶことは、悪いことではありません。音楽でもスポーツでも仕事でも、最初は憧れている人を参考にするのが普通です。私自身、講演の話し方はいろいろな人を参考にしてきました。ただ、「参考」と「模倣」の境界線は本当に難しい問題です。今回は、以前から嵐を参考にしていた事実があるからこそ、「MVも真似したのではないか」と感じる人が増えたのだと思います。
しかし、過去にライブを参考にしたことと、今回のMVを真似した可能性があることは別々の話です。前に参考にしたことがあるからといって、「パクった」と断定する材料にはなりません。
嵐ファンの違和感も、=LOVEファンの反発も、どちらも自然な感情
私は嵐がずっと好きなので、嵐のファンが複雑な気持ちになることは理解できます。
「Five」は久しぶりの最新シングルであり、嵐の長い歴史と絆を感じられる作品です。単に「バスが登場するMV」というだけでは片付けられません。26年という時間を一緒に歩いてきた5人が同じバスに乗り、笑い合いながら旅をする。ここに、嵐のファンは特別な意味を感じています。
その大切な作品と似た映像が、短期間のうちに別のグループから公開されたら、「大切に思っていたものをそのまま使われたように感じる」のは自然な感情です。ファンが違和感を持つこと自体を「嵐ファンは怖い」「面倒なファンが騒いでいる」と切り捨てるべきではありません。大切にしてきた作品だからこそ敏感になっている、その気持ちまで否定してはいけないと思います。
一方で、=LOVEのファンが反発したくなる気持ちも分かります。「夢の続き」は、国立競技場から東京ドームへ向かう節目を描いた作品です。=LOVEにはなかなか売れない時期が長くあり、メンバーとファンが長い時間をかけて実現した夢が込められています。公開直後から「パクリだ」「嵐の真似でしかない」と言われたら、悲しいのは当然です。
作品への疑問は自由。でも出演者への人格攻撃は別の話
MVの企画や監督、撮影方法を決めたのはメンバー本人たちではありません。制作の経緯も分かっていない段階で、「=LOVEは最悪だ」とメンバーに誹謗中傷を向けるのは違うでしょう。作品への疑問は構いません。しかし、出演している人への人格攻撃はダメです。
SNSの炎上や誹謗中傷は、この「人格攻撃」まで簡単に行ってしまいます。学校のいじめの事案が明るみに出たとき、いじめた側に「一生社会に出てくるな」とまで言う投稿を見かけますが、悪いことだと指摘することと、外野が人格を否定することは別の話です。
「この演出は似ていると思う」と意見を言うことと、「=LOVEは人の作品をパクるグループだ」とグループ全体を否定することは、まったく違います。
一番残念なのは、ファン同士が攻撃し合っていること
今回の騒動で私がいちばん残念に思うのは、作品の類似性そのものではなく、ファン同士が攻撃し合っていることです。
嵐のファンは=LOVEを攻撃し、=LOVEのファンは嵐や嵐のファンを攻撃しています。「嵐はもう終わったからいいだろう」と言い出す人や年齢を理由に馬鹿にする人がいれば、逆に嵐ファン側が人気や実績を比較して見下す。「知らないくせに」「時代遅れ」「売名」と、お互いが強い言葉をぶつけ合っています。
これで、誰が幸せになるのでしょうか。嵐のメンバーも=LOVEのメンバーも、自分たちのファンが相手を傷つけることを絶対に望んでいないはずです。
好きな人を守るために誰かを攻撃し、その結果、好きな人の名前まで悪い印象と一緒に広がってしまう。これは応援なのでしょうか。応援が強くなりすぎると、「推しを守るためなら相手を傷つけてもいい」という考えに変わってしまう人がいます。でも、応援と攻撃は違います。
なぜSNSでは「パクリ」という強い言葉ばかりが広がるのか
残念ながら、SNSでは強い言葉ほど広がります。「少し似ている気がする」よりも「パクリだ」と言い切った投稿のほうがインプレッションを取れますし、「公式の説明を待ちましょう」よりも「嵐ファンは全員怖い」「=LOVEファンは民度が低い」のほうが目立ちます。
すると、ごく一部の過激な投稿が広がり、まるでファン全体の意見のように見えてしまいます。実際には、「似ているけれど=LOVEも頑張ってね」「嵐へのリスペクトなら嬉しい」「どっちも好き」という人がほとんどのはずです。それなのに、数人の攻撃的な投稿が広がりすぎた結果、お互いを決めつけ合い、誰も幸せになっていない。だからこそ、一人の発言を何万人ものファン全体に広げて考えないことが大切です。
「分からない」という場所に立ち続けることもSNSリテラシー
結局のところ、=LOVEのMVが嵐の「Five」を参考にしたのか、正式なオマージュなのか、制作側同士で話があったのか、旅と絆を描いた結果たまたま似てしまったのか。現時点で私たちには分かりません。これだけ多くの楽曲や映像が生まれている以上、何かに似る確率は上がっており、新曲を出すたびに「誰々のパクリだ」と言われてしまうアーティストもいるほどです。
今後も公式から説明が出ない可能性はあります。すべての疑問に公式が必ず答えるとは限りません。かといって、確認されていないことを勝手に埋めてファンが断定するのは違います。疑問を持つことも、似ていると思うことも、作品に批判的な感想を持つことも自由です。しかし、「自分はそう感じた」という感想と、「これが真実だ、=LOVEはパクったんだ」という断定の間には、大きな違いがあります。公式の情報がない以上、「現時点では分からない」という場所に立ち続けること。これも立派なSNSリテラシーです。
まとめ:主語を大きくしない、断定しない、人に石を投げない
こうした騒動で本当に大切にしてほしいのは、主語を大きくしすぎないことです。
「この場面は似ていると思う」なら、作品の具体的な部分についての話です。しかし「=LOVEはパクった」となると、グループ全体への攻撃になります。「一部の嵐ファンから批判が出ている」なら確認できる現象の説明ですが、「嵐ファンは若いアイドルを潰そうとしている」となると飛躍しすぎです。
SNSでは、意見が批判になり、批判が攻撃になり、簡単に境界線を超えていきます。だからこそ、批判したくなるときほど、誰のどの発言について話しているのか、作品のどの部分に疑問を持っているのかを具体的に言葉にする。主語を大きくしない。攻撃しない。ここが大事です。
嵐のファンの違和感も、=LOVEのファンが作品やメンバーを守りたい気持ちも分かります。それでも、今は何も事実が確認できていません。ファン同士が攻撃し合っても、残るのは傷つけられた人と、それぞれのファンに対する悪い印象だけです。好きなアーティストやアイドルを守りたいのであれば、相手を攻撃する前に、「この言葉を自分の推しが見たらどう思うか」を一度考えてみてください。推しを応援することと、誰かを敵にすることはイコールではありません。
疑問があるなら疑問として話す。分からないことは分からないと言う。むやみに断定しない。人に向かって石を投げない。これが、今の私たちにできるいちばん冷静な向き合い方だと思います。公式のMVのコメント欄も、SNS全体も、もっと穏やかな場所であってほしい。そのためにも、リテラシーを一つひとつ磨いていく必要があるのだと思います。
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