映画『トイ・ストーリー5』は単なるエンターテインメント作品ではなく、「子どもとデジタルデバイスの向き合い方」を描いた教材です。
「スマホばかり見てはいけない」
「もっと外で遊びなさい」
大人はそう言いがちですが、それだけでは子どもにはなかなか届きません。
でもこの作品は、おもちゃたちの物語を通して、デジタルデバイスとの付き合い方を子ども自身が考えられるように描いています。
しかも興味深いのは、スマートフォンやタブレットを単純な「悪者」として終わらせなかったことです。
私は全国でSNS・デジタルリテラシー講演を行っている立場から、この映画に込められていたメッセージを、子どものSNS教育・デジタル教育という視点で考えてみたいと思います。
※この記事には映画『トイ・ストーリー5』のネタバレが含まれます。未鑑賞の方はご注意ください。
ここから先は映画のネタバレを含みます
この記事では、『トイ・ストーリー5』の物語や結末に関わる内容に触れています。
映画をこれから観る予定の方には、まず作品を鑑賞してから、あらためてこの記事を読んでいただくことをおすすめします。
作品を観たあとに読むことで、映画の中に込められていたメッセージを、子どものSNS教育やデジタル教育という視点から、さらに深く考えていただけるはずです。
おもちゃとデジタルデバイスが向き合う物語
『トイ・ストーリー5』は、ディズニー&ピクサーによる「トイ・ストーリー」シリーズの第5作です。
アメリカでは2026年6月19日に公開され、上映時間は1時間42分。監督は『ファインディング・ニモ』『ウォーリー』などを手がけたアンドリュー・スタントンです。
今回の物語で、おもちゃたちの前に現れる新たな存在が、タブレット型のデジタルデバイス「リリーパッド」です。
ボニーがタブレットに夢中になったことで、ウッディやバズ、ジェシーたちの役割は大きく変化していきます。
これまで子どもたちの遊びの中心だったおもちゃと、現代の子どもたちの生活に入り込んだデジタルデバイス。
まさに「Toy meets Tech」、おもちゃとテクノロジーの対立を通して、現代の子どもの遊び方や人間関係を描いた作品です。
ディズニーだからこそ伝えられたテーマ
私がこの映画を観て、まず素晴らしいと感じたのは、ディズニー、そして「トイ・ストーリー」という世界的な作品を通して、子どもとデジタルデバイスの問題に自然な形で切り込んだことです。
子どもに対して、
「スマホばかり見てはいけません」
「タブレットを使いすぎてはいけません」
「もっと外で遊びなさい」
と大人が一方的に言っても、なかなか届きません。
子どもからすれば、スマートフォンやタブレットは、生まれたときから身近に存在しているものです。
大人にとっては「途中から登場した新しい道具」でも、今の子どもたちにとっては、最初から生活の中にある当たり前の存在なのです。
そのため、デジタルデバイスの危険性だけを大人が説明しても、子どもは自分の問題として受け止めにくいことがあります。
しかし、『トイ・ストーリー5』では、子どもたちが大好きなキャラクターたちの物語を通して、デジタルデバイスに夢中になることで何が失われるのかを描いています。
説教されているような感覚を持たずに、楽しみながらデジタルデバイスとの向き合い方を考えられる。
その意味で、この映画は子どもたちにとって非常に優れたデジタルリテラシー教材になっていると感じました。
デジタルデバイスを「悪者」で終わらせなかった
物語の中盤までは、デジタルデバイスが、おもちゃや子ども同士の遊びを奪ってしまう存在として描かれます。
子どもたちは同じ場所にいても、それぞれが画面を見ています。
近くに友達がいても、直接話したり、想像力を働かせて遊んだりする時間が失われていきます。
窓の外に見える家々が、スマートフォンやタブレットの光に照らされ、子どもたちが外に集まらなくなっている様子も描かれました。
この光景は、決して映画の中だけの話ではありません。
今は「友達と一緒に遊んでいる」と言っても、全員が別々の画面を見ていることがあります。
同じ部屋にいる。
同じテーブルを囲んでいる。
けれども、心や意識は、それぞれ別の場所に向いている。
デジタルデバイスは人と人をつなぐ道具である一方で、目の前にいる人とのつながりを薄くしてしまうこともあります。
だからこそ、子どもたちには一度、自分の過ごし方を振り返ってほしいと思います。
「今日は友達と何をして遊んだだろう」
「一緒にいた時間のうち、どれくらい画面を見ていただろう」
「相手の顔を見て、どれくらい話しただろう」
この映画は、そうしたことを子ども自身が考えるきっかけになる作品だと思います。
一方で、『トイ・ストーリー5』は、デジタルデバイスを単純な悪者として終わらせませんでした。
物語の最後には、デジタルデバイスが有効活用される場面も出てきます。
私は、この描き方が非常に重要だと感じました。
必要なのは「使わせないこと」ではなく「使い方を学ぶこと」
子どものスマートフォンやSNSをめぐる議論では、しばしば、
「持たせるべきか、持たせないべきか」
「禁止するべきか、自由に使わせるべきか」
という二択になってしまいます。
しかし、私はこの二択だけでは不十分だと考えています。
スマートフォンやタブレットは、子どもから完全に遠ざければよいものではありません。
これから子どもたちが生きていく社会では、デジタルデバイスを使わずに生活することは現実的ではないからです。
必要なのは、デジタルデバイスを使わせないことではなく、安全に、主体的に、目的を持って使える力を育てることです。
映画の最後には、子どもたちが画面から離れ、実際に集まって遊ぶ場面が描かれます。
ここだけを見れば、
「やはりデジタルではなく、リアルな遊びが大切だ」
という結論にも見えるかもしれません。
しかし、その楽しい時間を思い出として残すために、子どもたちは写真を撮っていました。
私は、この場面に作品の大切なメッセージが表れていると感じました。
デジタルか、リアルか。
どちらか一方を選ぶ必要はありません。
リアルな体験を中心に置きながら、その体験を豊かにしたり、記録したり、誰かと共有したりするためにデジタルを使う。
デジタルデバイスに人間が使われるのではなく、人間が目的を持ってデジタルデバイスを使う。
これが、これからの子どもたちに必要な姿勢なのではないでしょうか。
大切なのは利用時間だけではない
子どものデジタルデバイス利用というと、大人は「何時間使ったか」に目を向けがちです。
もちろん、長時間利用によって睡眠や勉強、運動などに影響が出ているのであれば、利用時間を見直す必要があります。
ただし、私は時間だけで判断するべきではないと考えています。
同じ1時間でも、
知らない人とトラブルになるようなやり取りをしていた1時間と、
友達と一緒に作品を作っていた1時間では、意味がまったく異なります。
何時間使ったのかだけではなく、
「何のために使ったのか」
「使ったあとにどのような気持ちになったのか」
「生活の中で何かが犠牲になっていないか」
「人とのつながりを深めたのか、遠ざけたのか」
まで考える必要があります。
重要なのは、デジタルデバイスそのものを評価することではありません。
その使い方によって、子どもの生活や心に何が起きているのかを見ることです。
「何かあったら、何でも言っていい」
この映画の中で、SNS教育という観点から特に印象に残った場面があります。
グループチャットでのやり取りによって傷ついた子どもに対し、母親が、
「何かあったら、いつでも何でも言っていい」
という趣旨の言葉を伝える場面です。
さらに母親は、一方的に子どもを責めるのではなく、
「グループチャットは、しばらくお休みしてもいい」
と伝えます。
私は、ここに家庭でのSNS教育において最も大切なことが表れていると思います。
子どもがSNSでトラブルに遭ったとき、大人が最初にするべきことは、スマートフォンを取り上げることでも、子どもを叱ることでもありません。
まずは、安心して話せる状況をつくることです。
ところが実際には、子どもがSNS上のトラブルを相談したときに、
「だからスマホなんて持たせたくなかったのに」
「そんな人と関わるからでしょう」
「もうスマホは禁止です」
と言ってしまう大人もいます。
大人としては、子どもを守りたい気持ちから出た言葉かもしれません。
しかし、子どもの立場からすれば、
「相談したら怒られた」
「話したらスマホを取り上げられた」
という経験になります。
すると、次にもっと深刻なトラブルが起きたとき、子どもは大人に相談しなくなります。
これが最も怖いことです。
子どもを守るのは、完璧な利用ルールだけではありません。
何かあったときに、親や先生へ話せる関係性です。
SNS上のトラブルをゼロにすることはできなくても、トラブルが起きたときに一人で抱え込ませないことはできます。
「禁止」は一時的な避難にはなっても、教育にはならない
もちろん、心が傷ついているときに、グループチャットやSNSから一時的に離れることは有効です。
通知を止める。
アプリを閉じる。
グループから距離を置く。
こうした行動は逃げではなく、自分の心を守るための立派な選択です。
映画の中で母親が伝えた「お休みしてもいい」という言葉も、子どもに選択肢を与えるものでした。
ここで大切なのは、永久に禁止するのではなく、必要な期間だけ距離を置き、その後どう向き合うかを一緒に考えることです。
ただ取り上げるだけでは、子どもは安全な使い方を学べません。
親に隠れて使うようになる可能性もあります。
トラブルが起きたときに必要なのは、
誰をブロックするのか。
どこに相談するのか。
証拠をどう残すのか。
どのような言葉には返信しないほうがよいのか。
そのグループに居続ける必要があるのか。
こうした具体的な対処法を、子どもと一緒に考えることです。
子どもからデジタルデバイスを遠ざけるだけではなく、子ども自身が危険を察知し、自分を守り、必要に応じて大人へ助けを求められるようにする。
それがデジタルリテラシー教育です。
大人自身の使い方も見られている
子どもに、
「食事中はスマホを見ないで」
「人と話しているときは画面を見ないで」
と言いながら、大人がずっとスマートフォンを見ていたら、その言葉には説得力がありません。
子どもは、大人が言ったこと以上に、大人がしていることを見ています。
家庭でスマートフォンのルールを考えるのであれば、子どもだけを対象にするのではなく、大人も含めた家族全体のルールにすることが大切です。
食事中は家族全員がスマートフォンを置く。
話しかけられたら、一度画面から目を離す。
写真を撮ったあとは、目の前の体験を楽しむ。
夜は通知が届かない設定にする。
困ったことがあれば、隠さず話せるようにする。
子どもだけに我慢を求めるのではなく、大人も一緒に使い方を見直す。
その姿勢そのものが、子どもにとってのデジタル教育になります。
スマートフォンを持たせることが、教育の終わりではない
子どもにスマートフォンを買い与え、フィルタリングを設定し、利用時間を決めた。
それで安心してしまう家庭もあるかもしれません。
しかし、スマートフォンを持たせた瞬間は、デジタル教育の終わりではありません。
むしろ、そこからが始まりです。
子どもの成長によって、使うアプリも、人間関係も、悩みも変わります。
昨日まで問題なく使えていたサービスで、突然トラブルに巻き込まれることもあります。
一度ルールを決めて終わりにするのではなく、子どもの成長や利用状況に合わせて、何度も話し合い、ルールを更新していく必要があります。
その際には、大人がすべてを決めるのではなく、子どもにも考えてもらうことが重要です。
「何時までなら翌朝つらくならないと思う?」
「嫌なメッセージが来たら、どうすればいいと思う?」
「写真を投稿する前に、何を確認する?」
「家族に相談してほしいのは、どんなとき?」
こうした対話を繰り返すことで、子どもは自分で考える力を身につけていきます。
デジタル社会を生き抜く力を育てる
私がSNS教育の講演で伝えたいのは、SNSやスマートフォンを怖がらせることではありません。
もちろん、SNSには危険があります。
誹謗中傷、いじめ、性被害、個人情報の流出、詐欺、依存、知らない大人との接触など、子どもたちに伝えなければならない問題は数多くあります。
しかし、危険性だけを伝えて終わる教育では、子どもはデジタル社会を生き抜くことができません。
SNSやデジタルデバイスには、人とつながる、学ぶ、表現する、作品を作る、思い出を残す、助けを求めるといった大きな可能性もあります。
だからこそ、必要なのは全面的な肯定でも、全面的な否定でもありません。
危険性と可能性の両方を理解し、自分で使い方を選べる力を育てることです。
『トイ・ストーリー5』は、おもちゃとデジタルデバイスの対立を描きながら、最後にはどちらか一方を排除するのではなく、共存する可能性を示しました。
デジタルを使う時間がある。
画面を置いて、目の前の人と遊ぶ時間もある。
そして、かけがえのない瞬間を写真に残すために、再びデジタルを使う。
大切なのは、スマートフォンを持っているかどうかではありません。
スマートフォンを置くべきときに、自分の意思で置けるかどうかです。
そして、困ったときに「助けて」と言えるかどうかです。
映画を観たあとに、親子で話してほしい
『トイ・ストーリー5』を親子で観た方には、映画館を出たあとに、ぜひ子どもと話してみてほしいと思います。
「タブレットは悪者だったと思う?」
「デジタルデバイスが役に立ったのは、どんな場面だった?」
「友達といるのに、みんなが画面を見ていたらどう思う?」
「グループチャットで嫌なことがあったら、誰に相談する?」
「スマートフォンを置いて遊ぶとしたら、何をしてみたい?」
正解を教える必要はありません。
子どもの答えを否定せず、まずは聞いてみてください。
映画を観ただけで、子どものスマートフォンの使い方がすぐに変わるわけではないでしょう。
しかし、一つの作品をきっかけに、親子でデジタルデバイスについて話すことはできます。
大切なのは、子どもがトラブルに遭ってから、初めて話し合うことではありません。
何も起きていない日常の中で、
「困ったら、いつでも話していい」
「一緒に考えるから、隠さなくていい」
と伝え続けることです。
子どもを守るために必要なのは、スマートフォンを一方的に禁止することではありません。
リアルな人とのつながりを大切にしながら、デジタルの力も正しく活用すること。
そして、失敗やトラブルが起きても、安心して戻ってこられる場所をつくること。
『トイ・ストーリー5』は、デジタルデバイスに囲まれて育つ子どもたちと、その子どもたちを支える大人に、大切な問いを投げかけてくれた作品でした。
子どもたちがデジタル社会を生き抜くために
『トイ・ストーリー5』は、デジタルデバイスをただ遠ざけるのではなく、リアルな人とのつながりを大切にしながら、必要な場面では正しく活用していくことの重要性を教えてくれる作品でした。
子どもたちを守るために必要なのは、スマートフォンやSNSを一方的に禁止することではありません。
危険性と可能性の両方を知り、自分で使い方を考え、困ったときには周囲の大人へ相談できる力を育てることです。
私はSNS教育講演家として、全国の学校、PTA、自治体、福祉施設、企業などで、子どもたちがSNS・スマートフォン・デジタルデバイスと安全に向き合うための講演会を実施しています。
子ども向けのSNSリテラシー教育はもちろん、保護者や教職員の方に向けた「子どものSNSトラブルへの向き合い方」「禁止だけに頼らない家庭でのルールづくり」といったテーマにも対応しています。
講演会の開催をご検討されている学校・団体・自治体・施設の方は、お気軽にご相談ください。
https://forms.gle/xTqQkeqxW6QFotLXA
また、YouTubeでも、子どものSNS利用やデジタル社会との向き合い方、SNS時代をより良く生きるための考え方を発信しています。
今回の記事を読んで、子どもとスマートフォンの関係についてさらに考えてみたいと感じた方は、ぜひYouTubeの動画もご覧ください。
映画やニュース、実際に起きているSNSトラブルなどを題材にしながら、これからの時代に必要なSNSリテラシー・メディアリテラシー・デジタルリテラシーについて、分かりやすくお伝えしています。
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