バズの後に誹謗中傷が来るのは、届く人数が増えると届く言葉を選べなくなるからです。そして点数化された瞬間、人は比べて攻撃的になりやすくなります。この記事を読めば、個人が作ったサービスがなぜ公開停止に至るのか、いいね数や点数が実際に測っているものは何か、そして言葉を投げる前に止まるための3つの習慣が分かります。
「バズったんだから、多少の批判は我慢すべきでしょう」——そう言われることがあります。でも企業には窓口や担当者がいて、個人には自分のスマホしかありません。無料で、登録も不要で、楽しいものを作ってくれた人が、一週間後にはサービスを閉じている。そんなことが実際に起きています。
この記事では、2026年10月に実際に起きた個人向けウェブサービスの事例をもとに、バズと誹謗中傷のつながりを分解します。そのうえで、点数を見たときに自分を守る考え方までお伝えします。
注目してほしいのは、点数化という仕組み自体が持っている性質です。好きなものを10個並べるだけの遊びが、なぜ攻撃につながりうるのか。ここに、SNSの数字すべてに当てはまる話があります。
私は全国の学校・地方自治体・企業でSNSリテラシーやSNSとの向き合い方に関する講演を行っています。その立場から、この件を誰かを責める話ではなく、数字と人の気持ちの構造の話として考えていきます。
何が起きたのか:1週間で公開停止になったサービス
2026年10月の終わり、Xでこんな投稿が一気に流れてきました。「映画10選、75.6点でした」「72.5点でした」「あなたは何点? 10本選んでみて」。
好きな映画を10本選ぶと点数が出る、というウェブサービスです。登録は不要で、無料ですぐに遊べました。Yahoo!のリアルタイム検索のまとめでは、関連の投稿が1700件を超えていました。
仕組みはシンプルです。紹介記事によると、選んだ映画について映画データベースTMDBの平均評価を合計してスコアを算出するものでした。つまり、世間で高く評価されている映画を選ぶと点数が高くなる、という設計です。
映画好きの人が自分のオールタイムベストを並べて、点数を見せ合って盛り上がる。私も実際にやりました。楽しかったです。
ところが10月29日、サービスは公開停止になりました。
スポーツ日本の報道によると、開発者は「ひどい誹謗中傷を受けている」と説明していたとされています。
どんな誹謗中傷だったのか、開発者が個人なのかどんな立場の人なのか、再開があるのかは、確認できた範囲では分かっていません。
バズは報酬ではなく、リスクでもある
ここから本題です。
SNSで何かを作った人、発信している人にとって、バズることはご褒美に見えます。たくさんの人に見てもらえた。使ってもらえた。
でも、バズるというのはこういうことでもあります。普段自分に届かない人まで、一気に自分のところに来るということです。
10人、100人が使ってくれているうちは、だいたい好きで来てくれた人たちです。普段からフォローしてくれている人、見てくれている人。
それが1000人、1万人になると、たまたま流れてきた人、なんとなく触った人、文句を言いたい人も同じだけ混ざってきます。
そして、その全員が作った人に直接言葉を投げられる。
個人には、受け止める器がない
企業であれば、問い合わせ窓口があり、担当者がいて、法務もいます。個人や小さなチームで作ったサービスには、それがありません。あるのは自分のスマホだけです。
誹謗中傷は、投稿を消しても受けた側の損害が消えるわけではありません。人生を削ってきます。
だから「バズったんだから多少の批判は我慢しろ」は、やはり違うと思っています。
バズは届く人の人数を増やします。それはいいことでもある一方で、自分に届く言葉を選べなくなるということでもあります。
私自身、ThreadsというSNSで20万人に見られた投稿がありますし、1万人に届く投稿も何度か出しています。実感として、数百人で止まっているうちは好意的なコメントが多いのですが、数千人に届くようになると、批判的なコメントもはっきり届くようになります。
人数が増えるというのは、そういうことなんです。
点数化された瞬間、人は攻撃的になりやすい
先に書いておきますが、今回の誹謗中傷が点数への不満から来たのかどうかは分かりません。報道でも出ていないので、そこを断定するつもりはありません。
ただ、構造として、点数化には人を攻撃的にさせやすい性質があります。
考えてみてほしいのですが、好きな映画10本は、ただのリストではありません。
自分の一部であり、アイデンティティのように見られる可能性があります。何百本も観てきた中から選んだ10本。人に勧められる、胸を張れる作品。つらい時に支えてくれた作品。子どもの頃に観た作品。人生を変えた作品。
それを10本並べたら、自分の人生の地図のように感じる人も多いと思います。
そこに点数がつきます。72点、75点。
これはあくまで、たくさんの人が付けた評価の平均値を合計しただけの数字です。それでも、自分の人生に点数が付いたように感じる人はいます。
いいね数も、同じ性質を持っている
これは映画の話だけではありません。
いいねの数も、アルゴリズムによって大きく変わります。Threadsではとても見られて評価されていても、Xでは評価されない。TikTokでは評価されるのに、Instagramでは評価されない。こういうことは普通に起きています。
もしその人がInstagramしかやっていなければ、「私は評価されないんだ」と思ってしまいます。他の場所ならまったく違う数字が出ていたかもしれないのに。
伸びやすい時期に伸びた人は、その分だけ多くの人に届けるチャンスをすでに持っています。だから、いいねの数でその人の価値が測れるわけがないんです。
いいねは、あなたの価値の数字ではありません。
傷んだ気持ちが、他の誰かへの攻撃に変わる
怖いのはここです。
点数で傷ついた人が、その気持ちを誰かを攻撃することで晴らそうとすることがあります。
あいつの投稿はなぜあんなにいいねが付くんだ。どうせフォロワーを買っているんだ。批判してやろう。悪口を言ってやろう。
点数で比べられた痛みが、他の誰かへの攻撃に変わる。こうした事例はたくさん起きています。
点数化は、比べさせます。比べさせると、攻撃や嫉妬が生まれやすくなる。これが構造です。
言葉を投げる前に止まるための3つの習慣
1. 点数を見たら、「これは何を測っている数字か」を一度考える
今回の映画サービスの点数なら、世間の平均評価の合計に過ぎません。いいね数なら、何人がいいねを押したのかでしかありません。
測っているものが分かれば、自分の価値と切り離して考えられます。
あなたの愛着や思い入れ、誇りが否定されたわけではない。ここが一番伝えたいところです。自分の好きなものに点数が付いたとしても、それはあなたの価値ではありません。
2. 作った人にも人生があると知っておく
無料で、登録も不要で、楽しいサービスを作ってくれた人がいます。
自分の好きな映画と被っている人を見つけて、「この作品は観たことがないけれど、面白いのかな」と新しい作品に出会える。みんなで楽しめるものでした。
点数が気に入らなかったとしても、その人に言葉を投げる前に一度止まってほしいんです。
3. 受け止めるものと、受け止めなくていいものを分けておく
批判とコメントは、受け止めるかどうかを自分で決めていいものです。
私自身、いただいたコメントは受け止めますが、採用するかどうかは別だと考えています。この線を自分の中に持っておくだけで、数字に振り回されにくくなります。
まとめ:数字が測っているのは、あなたの価値ではない
みんなで遊べるサービスを作ってくれる人は、SNSを楽しくしてくれる大事な存在だと思います。好きな映画を10本並べて見せ合うこと自体は、SNSのいい使い方でした。
それが誹謗中傷に変わってしまった。
誹謗中傷をした人が全員どうしようもない、と言いたいわけではありません。自分の好きなものに誇りやこだわり、思い入れを持っている人が低い点数を付けられたときに起こる気持ちは、分かる部分もあります。
だからこそ、この件はSNSとの向き合い方を考えるきっかけになる事例だったと思っています。
・バズは報酬ではなく、リスクでもある
・点数化された瞬間、人は比べて攻撃的になりやすい
・点数は、点数が測っているものしか測っていない
自分の好きなものに点数が付いても、それはあなたの価値ではありません。そう思えるだけで、作った人に向かう言葉は少し柔らかくなるのではないかと思います。
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