子どもがスマホをやめられないのは、意思が弱いからではありません。やめる役割を担う前頭前野が、16歳頃まで本格的に育ち始めないからです。この記事を読めば、「やめなさい」という声かけがなぜ効かないのかが脳の話として分かり、叱らずに伝える方法と、親子で作れる具体的な仕組みまで分かります。
「何時間までって約束したでしょう」
「自分で時間を管理しなさい」
スマホをめぐって、毎日のようにこのやり取りを繰り返しているご家庭は少なくありません。言っても聞かない、怒っても変わらない、そして喧嘩になる。多くの保護者がここで消耗しています。
この記事では、2026年10月17日にKBC九州朝日放送が配信した特集で紹介された脳の知見と、そこから見える対策を整理します。ポイントは、子どもを責める材料ではなく、叱らずに説明できる材料として脳の話を使う、という点です。
意外に思われるかもしれませんが、この問題は子どもだけのものではありません。同じ特集では、SNSが原因で心の不調を訴える大人が増えており、相談者には70代・80代もいると紹介されています。前頭前野が育ち切った大人でも、止まらない人は止まらないのです。
私は全国の学校・自治体・企業でSNSリテラシーやSNSとの向き合い方をテーマに講演を行っています。その立場から、「禁止」でも「本人の意思頼み」でもない、三つ目の選び方をお伝えします。
「ドパガキ」とは?特集が伝えた若者のスマホ利用時間
まず、今回の出発点になった報道を紹介します。
KBC九州朝日放送が2026年10月17日に配信した特集は、「“ドパガキ”SNS依存は若者だけではない…原因は『脳』世界の規制と日本の課題」というタイトルでした。
「ドパガキ」は、ドーパミンが出るものを延々と見続けてしまう若者を指すネットスラングです。はっきり言って、子どもを小馬鹿にした響きのある言葉です。この言葉の扱い方については、記事の最後にあらためて触れます。
1日11時間という数字をどう受け止めるか
この特集によると、福岡市・天神で取材を受けた中学3年生の男子生徒は、1日のスマホ利用を11時間ほどだと答えています。見ているのはInstagramとTikTok。部活を引退して時間が余っている、という説明でした。大学生の女性は、友達との会話をきっかけに最大14時間に達することがあると答えています。
数字だけを見ると、「それはさすがに使いすぎだ」「自己管理ができていない」と言いたくなるかもしれません。私も、この数字そのものは健全だとは思いません。
ただ、ここで「自己管理ができていない」で片づけてしまうと、対策を一歩も進められなくなります。なぜなら、自己管理という機能そのものが、まだ本格的に動いていないからです。
子どもがスマホをやめられないのは、意思が弱いからではありません
ここからが、今回いちばんお伝えしたい部分です。
理性を担う前頭前野が本格的に育ち始めるのは16歳頃
同じ特集では、富山大学医学部疫学健康政策学の山田正明准教授が解説をしています。
脳は25歳頃まで成長を続けること。理性や自制心を担う前頭前野が本格的に成長し始めるのは、16歳頃であること。それ以前は自制が効きにくく、興奮できるものを見つけると夢中になりやすいこと。だから子どもは大人より依存に陥りやすいこと。そして、依存性の高いアルゴリズムの危険性が、日本ではまだ十分に理解されていないこと。
この解説を、順番どおりに並べ直してみてください。
16歳より前の子どもに対して、私たち大人は「自分で止めなさい」と言っています。ところが、止めるための脳の部分が、まだ本格的に動き始めていないのです。
「やめなさい」は、まだ動いていない部品に動けと言っている
親が子どもに使う言葉で、おそらく最も多いのがこれです。
「やめなさい」「時間を自分で管理しなさい」「何時間までって約束しなさい」「約束したでしょう」。
これらは全部、前頭前野に向かって言っています。理性で止めろ、自制心で管理しろ、約束を守れ。すべて前頭前野の仕事です。
そして、その前頭前野が本格的に動き始めるのは16歳頃。つまり中学生に「自分で止めなさい」と言うのは、まだ稼働していない部品に向かって「動け」と言っているのに近いのです。
動かないから、怒る。怒っても動かない。また喧嘩になる。以前、保護者を対象とした調査を取り上げた際に、7割以上の家庭がスマホをめぐってもめているという数字を紹介しましたが、その原因の根っこはここにあるのではないかと私は考えています。
大事なのは、これが「子どもは我慢できないから仕方がない」という話ではない、という点です。そうではなく、これは叱らずに説明できる材料なのです。「あなたが悪いんじゃない。脳がまだそういう時期なんだ」。この一言が言えるかどうかで、子どもへの伝わり方はまったく変わります。人は、責められていると感じたときではなく、説明されたときに動くからです。
世界はどう対応しているのか?オーストラリア・EU・アメリカの動き
「本人の意思だけでは止まらない」という前提に立つと、世界の動きの意味が見えてきます。
オーストラリアは、16歳未満のSNSアカウント作成を禁止しました。注目すべきは、罰則の対象が子どもや保護者ではなく、事業者である点です。実際に運用してみてどうだったのか、見直しの議論も始まっています。
EUは2026年9月、15歳未満のSNS利用を制限し、依存を招く機能そのものを禁止する内容を含む「子供法案」を発表しました。
アメリカのカリフォルニア州でも、16歳未満の利用について自動再生などの機能を制限する新しい法律が成立しています。
やっていることは、どれも同じ方向です。前頭前野が止められないなら、別の部分で止める。保護者が止める、あるいは設計が止める。本人の意思の外側に、止める役割を置いているのです。
SNS依存は若者だけの問題ではありません
ここで、多くの人が見落とす話をします。
「前頭前野が16歳まで育っていない」と聞くと、「では大人は大丈夫なんだな」と思いたくなります。自分はもう育っているのだから、自分で止められるはずだ、と。
ところが同じ特集には、SNSが原因で心の不調を訴える大人が増えており、相談者には70代・80代もいる、という医師の話が出てきます。深夜まで寝つけないという睡眠の問題が多く、キラキラした投稿と自分を比べて自己肯定感が下がる、焦る、孤立感がある、気分の落ち込みやイライラが強まる、といった状態です。
つまり、前頭前野が育っていても、無限スクロールや自動再生、おすすめ機能といった設計には勝てないということです。
これらの機能は、「そろそろやめようかな」と思うより前に次を出してきます。しかも、出てくるのはあなたが好きなものです。好きな食べ物を、お腹いっぱいにならない状態で無限に出され続けたら、誰でも食べ続けてしまいます。ショート動画には、その満腹のサインがありません。
子どもは危ない、というのはもう十分に言われています。問題は、大人も同じ設計の上に乗っていることに気づいていない点です。
止める役割を「外」に置くとはどういうことか
ここで絶対に間違えてはいけないことがあります。
「前頭前野が育っていないから我慢できなくて仕方ないよね」と、そこで止めてしまうことです。仕方ないで終わらせて好きにさせてしまえば、1日11時間、14時間という使い方になります。そして前頭前野が育つはずの時間を、スクロールで使い切ってしまいます。
正しい受け取り方はこうです。自分で止められないのなら、止める役割を外に置く。
やめられないのは意思の問題ではなく、設計の問題です。SNSのショート動画には終わりがありません。そして脳の側にも、まだ止める構造が育っていない。終わらない設計と、止まらない脳。これが重なれば、続いて当然なのです。
なお私は、SNSの一律禁止には反対です。子どもはいつか必ずSNSを使います。学校でもタブレットが配られ、家庭のテレビでも動画が見られる今、一切使わせないというのは現実的ではありません。小さな失敗をしながら学んでいく期間が必要だと思っています。
だからこそ、「禁止」でも「本人の意思頼み」でもない三つ目の選び方として、止める役割を外に置く、という発想が要るのです。
今日からできる3つのこと
1. 「やめなさい」の代わりに「一緒に止まる仕組みを作ろう」と言う
前頭前野が本格稼働していないのであれば、当面は親がその代わりを務めるしかありません。
ただし、黙って取り上げるのは逆効果です。「なんで取り上げるの」と反発されて終わります。
順番としては、まず脳の話をしてください。「あなたが悪いんじゃない。脳がまだそういう時期だから、自分で止めるのが難しいだけなんだよ」。そのうえで、やめるタイミングや置き場所を一緒に決める。終わりの設計を、親子で一緒に作れるかどうかが勝負どころです。
2. 大人こそ、自分の設計を見直す
「自分は大人だから大丈夫」が、いちばん危ない考え方です。70代・80代が相談に訪れているのですから。
具体的にできることは、そう難しくありません。おすすめタブではなくフォロー中の欄だけを見る。通知を切る。寝る前にスマホをリビングで充電する。この3つだけでも、触る回数は確実に減ります。
私自身、SNSの通知は一つも受け取っていません。アプリに数字すら出ない設定です。通知をつけたままにしていると、人生の時間がどんどん持っていかれます。SNSは有効な道具であり、素晴らしいものだと思っていますが、自分のコントロール下に置けなくなった時点で、使う側ではなく使われる側になります。
3. 「ドパガキ」を、子どもを責める言葉にしない
最後にこれです。
今回の内容を踏まえると、「ドパガキ」と呼ばれている子どもたちは、前頭前野が育つ前に依存性の高いアルゴリズムに乗せられてしまった子どもたち、ということになります。
それは責める対象ではなく、本来は守る対象のはずです。
現に、大人が環境の側を用意する動きも出てきています。北九州市では、地元の老舗企業と北九州市立大学の学生が連携し、デジタル機器から離れて過ごせるカフェを運営しています。入店時にスマホをロッカーに預ける仕組みで、店内ではボードゲームなどを楽しめるそうです。こうした「預けられる場所」を大人が用意していくことこそ、大人の仕事ではないかと思います。
まとめ:「自分で止めなさい」ではなく「一緒に止まる仕組みを作ろう」へ
今回の内容を整理します。
・理性や自制心を担う前頭前野が本格的に育ち始めるのは16歳頃。それ以前の子どもに「自分で止めなさい」と言うのは、まだ動いていない部品に動けと言うのに近い
・これは「仕方ない」で終わらせる話ではなく、叱らずに説明できる材料として使うもの
・オーストラリア・EU・カリフォルニア州の規制は、いずれも「本人の意思の外側に、止める役割を置く」という同じ発想に立っている
・SNS依存は若者だけの問題ではない。70代・80代の相談もあり、前頭前野が育った大人でも、無限スクロールや自動再生の設計には勝てない
・親は一緒に終わりの設計を作る。大人は通知と置き場所から自分の設計を見直す。そして「ドパガキ」を子どもを責める言葉にしない
SNSは、使い方次第で人生を豊かにする道具です。だからこそ一律禁止ではなく、止める役割を本人の意思だけに預けない仕組みを、家庭でも社会でも作っていきたいと思っています。
今日は「自分で止めなさい」ではなく「一緒に止まる仕組みを作ろうね」に言い換える。それだけ覚えて帰っていただければ十分です。
SNS教育講演会のご相談を承っております
SNS教育講演家の櫻井健太は、全国の学校・PTA・教育機関・企業・各種団体様を対象に、SNSリテラシーやメディアリテラシーに関する講演会を実施しています。
SNSトラブルや誹謗中傷、スマホ依存、闇バイト、ネット詐欺、生成AIによるフェイク画像・フェイク動画など、対象者やご希望に合わせて講演内容を調整いたします。
SNSの危険性を一方的に伝えるのではなく、SNSやAIが持つ可能性にも触れながら、「禁止する」のではなく「自分で考えて正しく使えるようになる」ことを大切にしています。
小学生・中学生・高校生・保護者・教職員向けの講演に対応しております。開催内容や料金、講演時間などについては、以下のお問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。
YouTubeでもSNSの最新情報を発信しています
YouTubeでは、SNS教育講演家の視点から、SNSで話題になったニュースや炎上事例、ネット詐欺、誹謗中傷、スマホとの付き合い方などを分かりやすく解説しています。
子どもたちに伝えたいSNSの知識はもちろん、保護者や教職員、大人のSNS利用にも役立つ内容を発信しています。
SNSや生成AIを安全に活用するための知識を身につけたい方は、ぜひ動画もご覧ください。
チャンネル登録もしていただけるとうれしいです。
電子書籍でもSNSリテラシーについて発信しています
Amazon Kindleでは、子どもたちのSNS利用や、保護者・教育関係者に知っていただきたいSNSリテラシーについてまとめた電子書籍を出版しています。
講演会やYouTubeとあわせて、ぜひご覧ください。
【PR】▶ SNSリテラシー関連書籍をAmazonで見る
