SNSのデマは、悪意のある人だけが流しているわけではありません。流すとお金が入る設計になっているから流れている部分があります。この記事を読めば、国が今まさに議論している「閲覧数に応じた収益の仕組み」が偽情報対策の焦点になっている理由と、見る側が今日から使える3つの確認方法が分かります。
「デマを流すのは悪意のある人だ」
「思想が偏っている人がやっていることだ」
多くの方がそう考えています。けれど、この前提で対策を考えると、対策そのものが的を外してしまいます。
この記事では、2026年9月に報道された与野党協議会の議論内容を整理したうえで、なぜ「人を罰する」より「構造を変える」ほうが合理的なのかをお伝えします。
意外に思われるかもしれませんが、デマを拡散している人の中には、悪意がゼロの人がいます。良心で拡散している人もいますし、「みんなが見たいものを出しているだけ」という感覚の人もいます。悪意がない人に「悪意を持つな」と言っても、何も変わらないんですよね。
私は全国の学校・企業・地方自治体でSNSリテラシーやメディアリテラシーの講演を行い、SNS運用の相談も受けています。発信する側の立場からも考えたことを書きます。
何が議論されているのか
2026年9月27日のNHKの報道で、与野党の協議会が選挙期間中のSNSでの偽情報・誤情報対策を議論していることが伝えられました。近く考え方を取りまとめるとされています。
焦点は「閲覧数に応じて収益が発生する仕組み」
この議論の焦点になっているのは、閲覧数に応じて投稿者に収益が発生する仕組みをどう扱うか、という点です。
検討されている方向としては、次の3つが挙げられています。
- プラットフォーム事業者に対する収益分配のルール
- 広告表示の透明性
- 選挙期間中だけの特別な適用
つまり、デマを書いた人を罰するのではなく、デマを書くと儲かる構造のほうを変えようという話です。
私はこの方向性は、筋がいいと思っています。
突然出てきた話ではない
この議論は、いきなり出てきたものではありません。
2025年2月には、自民党が動画再生数稼ぎの規制論について論点整理をしていました。2025年6月には、与野党が偽情報を拡散した発信者への収益支払い停止を含む対策を出しています。今回の協議会は、その延長線上にあります。
プラットフォーム側も同じ方向に動いています。2026年9月8日、X が収益化の仕組みを「オリジナルコンテンツ報酬」に切り替えました。転載やAIによる自動返信などを収益の対象外にした変更です。
なぜ収益の仕組みがデマ対策の焦点になるのか
ここからが本題です。
X、TikTok、YouTubeなどで採用されている収益の仕組みは、基本的に「たくさん見られた投稿にお金が払われる」設計になっています。インプレッション、再生数、閲覧数が大きいほど、入ってくる金額も大きくなります。
真偽と閲覧数には相関がない
問題は、真偽と閲覧数の間に相関がないことです。
正しい情報がたくさん見られるわけではありません。正しくても、退屈だったら見られません。逆に、誤った情報でも刺激的だったら見られます。
さらにSNSは、反応が大きいものを優先して表示します。そして反応が大きいのは、怒り、驚き、不安といった、感情を動かす投稿なんですよね。
選挙期間中は「怒り・驚き・不安」が最も伸びる
選挙期間中は、まさにこの怒りや驚きや不安が集まる時期です。
「○○候補は実は△△だった」「○○党の裏の狙いはこれだ」「メディアが報じない真実」といった投稿は、真偽に関係なく伸びます。
伸びたらお金が入ります。お金が入るなら、次も作ります。
デマは「信じている人」だけでなく「儲かるから作る人」からも流れる
ここが大事なところです。
デマは、それを信じている人だけが流しているわけではありません。儲かるから作っている人からも流れています。
以前、沖縄県知事選について取り上げたとき、関連投稿の約9割が県外からの発信だったという話をしました。その中には、選挙に興味はないけれど伸びるから投稿している人も含まれているはずです。
デマを「悪意」で語ると対策を間違える
私が講演でよくお話しするのが、この点です。
デマを流す人は悪い人だ、という前提で対策を考えると、対策は「悪い人を見つけて罰する」になります。
悪意がない人に「悪意を持つな」と言っても変わらない
でも、儲かるから流している人は、自分を悪い人だと思っていません。バズる投稿を作っているだけ、みんなが見たいものを出しているだけ、という感覚です。
災害のデマを良心で拡散している人もいます。誰かの役に立つと思って拡散した。二次情報だと気づかずに広めてしまった。こういうケースでは、悪意がゼロです。
悪意がない人たちに「悪意を持つな」と言っても、何も変わりませんよね。
変えるべきは動機ではなく構造
だから変えるべきなのは、人の動機ではなく構造です。
デマを流しても儲からないようにする。拡散しても数字が伸びないようにする。人を変えるより、設計を変えるほうが合理的だということです。
発信する側にとっても他人事ではない
私はSNSで発信をして、SNS運用の相談もたくさん受けている立場なので、これは自分に返ってくる話でもあります。
バズる方法を教えるコンサルは山ほどいます。でも、バズることと正しいことは別です。バズることと売れることも、イコールではありません。
バズる方法だけを追いかけると、自分が目指している方向に行かない可能性があるうえに、デマの構造に自分が乗ってしまう可能性もあります。
だから私がSNSのサポートをするときは、フォロワー数以上に信頼を大切にしましょう、という話をしています。信頼は、デマでは積み上がらないからです。
最大の課題は「何を偽情報とし、誰が判断するのか」
ここで逆側のことも書いておきます。
デマを流しても儲からない構造を作るのは素晴らしいことです。ただ、めちゃくちゃ難しいのが、何を偽情報とするのかを誰が決めるのか、という問題です。
判定が権力側の都合で動けば検閲になる
たとえば、政権に批判的な投稿を偽情報と判定して収益を止めたら、それは検閲です。野党に批判的な投稿だけ止めても、同じことになります。
偽情報の判定が権力側の都合で動いてしまえば、SNSは「政府に都合のいい情報だけが儲かる場所」になってしまいます。
何を偽情報と判断するのか、誰がそれを判断するのか。ここは表現の自由と直結する部分なので、簡単ではありません。私もここは慎重に見たほうがいいと思っています。
筋がいいのは「罰する」より「透明にする」方向
私が筋がいいと思っているのは、偽情報を国が判定して罰する方向ではなく、収益の仕組みそのものに透明性を持たせる方向です。
誰がどの投稿でいくら受け取っているのかが見えれば、儲けるために作られた投稿を、見る側で見分けられるようになります。
判定を国に任せるのではなく、見る側に判断できる材料を渡してほしい。これが私の考えです。
以前、日本のSNS規制は禁止ではなく年齢確認から入るという話をしました。禁止で一律に止めるより、グラデーションのある形で設計したほうが合理的だと思っています。今回も同じで、全部止めろという話ではなく、どういう仕組みで動いているのかを見せることが大事なんですよね。
見る側が今日からできる3つのこと
法律がどうなるかは、これから決まっていきます。その前に、見る側としてできることが3つあります。
1. この投稿で誰が儲かるのかを考える
刺激的な投稿や過激な投稿を見たら、「これが伸びたら誰にお金が入るんだっけ」と一度考えてみてください。
収益化しているアカウントなのか。切り抜きチャンネルなのか。フォロワーを集めて何かを売っている人なのか。
儲かる人がいるのなら、その投稿は「正しいから出している」のではなく「伸びるから出している」可能性があります。
2. 怒りで拡散しない
怒りは、人間の感情の中で最も反応しやすい感情です。そして、最もお金になりやすい感情でもあります。
だからデマは怒りを狙って作られます。「許せない」と思った瞬間が、一番拡散されやすく、一番騙されやすいからです。
怒ったときこそ、拡散したり噛みついたりせず、一度自分の中で落ち着かせてください。あなたの怒りをお金に変えようとしている人がいる、ということです。
3. 元の情報源にたどれるか確認する
これはYouTubeや講演でも何度も言っていることです。
切り抜きなら元の動画はあるか。「○○らしい」という情報なら、元の情報源にたどれるか。
元にたどれない投稿は、拡散しなくていいです。というより、拡散しないでください。
SNSで収益が出ること自体は悪くない
最後に私の立場をお伝えします。
私はSNSを、人生を豊かにする道具だと思っています。SNSで収益が出ること自体も、悪いことだとは思っていません。
人を笑顔にして収益を得る。人の役に立って収益を得る。これは何もおかしいことではありません。
ただ、収益が「情報が正しいかどうか」と切り離されたまま放置されると、SNSは「嘘でも何でもいいから刺激的なものを出して稼ぐ場所」になってしまいます。
そうなると、稼いでいる一部の人以外、使っている全員が損をします。
だからこの協議会の話は、政治の話としてだけではなく、SNSを使う全員の話として見てほしいんです。
デマを流す人は、これからも消えないと思います。問題はデマが儲かる設計であること。そしてもう1つ大事なのは、デマが流れているときに「これを流している人が儲かっているんじゃないか」と私たち自身が違和感に気づけることです。
まとめ
- 2026年9月27日、与野党の協議会が選挙期間中のSNS偽情報対策を議論していることが報道された
- 焦点は「閲覧数に応じて投稿者に収益が発生する仕組み」の扱いで、収益分配ルール・広告表示の透明性・選挙期間中の特別適用が検討されている
- 2025年2月の論点整理、6月の収益支払い停止を含む対策に続く流れで、X も9月8日に収益化を「オリジナルコンテンツ報酬」へ切り替えた
- 真偽と閲覧数には相関がなく、怒り・驚き・不安を動かす投稿が最も伸びるため、デマが収益と結びつきやすい
- デマを悪意で語ると「悪い人を罰する」対策になるが、儲かるから流す人や良心で拡散する人には効かない
- 最大の課題は「何を偽情報とし、誰が判断するのか」。判定が権力側の都合で動けば検閲になる
- 罰する方向より、収益の仕組みに透明性を持たせて見る側に材料を渡す方向のほうが筋がいい
- 見る側ができるのは、誰が儲かるのかを考える・怒りで拡散しない・元の情報源にたどれるか確認する、の3つ
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