自画撮り被害を防ぐために本当に必要なのは、「撮らせない」でも「知らない人に送らない」でもなく、「撮ったものは自分の手を離れる」という一言です。この記事を読めば、学校でよく使われる標語が子どもに届かない2つの理由と、保護者・教員が代わりに伝えるべき言葉、そして万が一拡散されたときに使える相談窓口まで分かります。
「知らない人に写真を送ってはいけません」
「そもそも撮らせないようにしなさい」
大人はそう言いがちです。けれど、この言い方で被害が止まらない子がいます。子ども本人からすれば、送っている相手は「知らない人」ではないからです。
この記事では、2026年9月に実際に起きた逮捕事件と、警察庁などが公表している数字を整理したうえで、標語を1つ入れ替えるだけで届き方が変わる理由をお伝えします。
意外に思われるかもしれませんが、「撮らせない」を目標にすると、かえって子どもが相談できなくなることがあります。撮ってしまった時点で、その子は「ルールを破った子」になってしまうからです。そして、脅す側はそのことを知っています。
私は全国の学校・PTA・企業・地方自治体でSNSリテラシーやメディアリテラシーの講演を行っています。その立場から、中高生とその保護者の方に一番届けたい内容をまとめました。
何が起きたのか
2026年9月28日、岡山県警が42歳の男性を、リベンジポルノ防止法違反の疑いで逮捕しました。
容疑は、ストーカー行為の相手だった20代の女性の性的な動画44点を、SNSのダイレクトメッセージで不特定の10人に送ったというものです。2025年8月から9月にかけて、送信は27回に及んだとされています。
この男性は、同じ女性へのストーカー行為で、9月8日にすでに逮捕されていました。
この動画がどう撮られたものかは報道されていない
念のため書いておきますが、この動画がどういう経緯で撮られたものなのかは報道されていません。ですので、そこに触れるつもりはありません。
ただ、構造として言えることが1つあります。
一度誰かの手元に渡った画像や動画は、その人との関係が終わった後も、その人の手元に残り続けるということです。
関係が終わり、ストーカーになった相手が、それを武器にしてしまった。これが今回の事件です。
「珍しい事件」ではない。数字で確認する
怖い事件だな、で終わってしまうと、自分の家庭の話にはなりません。だから数字を見ていただきたいんです。
リベンジポルノの相談件数は7年連続で増加している
リベンジポルノに関する相談件数は、2023年に1,812件でした。これは過去最多で、7年連続の増加です。
被害者の84%が女性です。
加害者との関係は「交際相手」と「ネット上の知人」で約7割
もう1つ見ていただきたいのが、加害者と被害者の関係です。
元交際相手を含む交際相手が48.6%。ネット上だけの知人が21.1%。
つまり、約半分は付き合っていた相手、約2割はネットで知り合った相手です。
知らない人にいきなり撮られたのではありません。信頼して渡した相手から被害が来ているということです。
ここが重要なポイントになります。
中高生の自画撮り被害という、もう1つの入り口
次に、中高生の話をします。
被害の約36%が自画撮り、そのほとんどが中学生と高校生
2024年の児童ポルノの被害児童は1,265人でした。そのうち約36%、462人が自画撮り被害です。
自画撮り被害とは、騙されたり脅されたりして、子どもが自分で自分の写真や動画を撮って送ってしまう被害のことです。
そして被害者のほとんどが、中学生と高校生です。
きっかけの約半分は「普通の投稿」
警察庁の資料では、SNSに関係する被害のうち72%は、子ども側の投稿がきっかけになっています。
ここで誤解されやすいのですが、その投稿の約半分は、プロフィールだけ、趣味の話、日常の話、友達募集といった、ごく普通の投稿です。
危険な投稿をしていたから狙われたのではなく、普段の投稿から狙われている。これが実態です。
だから「変な投稿をしなければ大丈夫」という対策では足りません。
「知らない人に送らない」が子どもに届かない2つの理由
学校では「知らない人に写真を送らないようにしましょう」と教えることが多いと思います。これは間違っていません。その通りです。
ただ、これだけでは効かないと私は考えています。理由は2つあります。
1. 送る相手は「知らない人」ではない
さきほどの数字を思い出してください。加害者の約半分は元交際相手、約2割はネット上の知人でした。
中高生の自画撮り被害も、優しくしてくれた人、相談に乗ってくれた人、好きだと言ってくれた人から頼まれています。
つまり本人にとっては、相手は「知らない人」ではなく「信じている人」なんです。
「知らない人に送るな」と言われても、「この人は知っている人だから大丈夫」と処理されてしまいます。だから届かないんですよね。
2. 「撮らせない」は撮った瞬間に終わってしまう
もう1つが、こちらのほうが深刻です。
「撮らせない」を目標にしてしまうと、自分で撮ってしまった子は、その時点で「ルールを破った子」になります。
そうなると、被害に遭っても親にも先生にも言えなくなります。送った自分がルール違反だ、自分が悪いんだ、と1人で抱え込んでしまう。
そして、脅している側はそれを知っています。「親に言ったらこの写真をばらまく」と、子どもが言えないことを利用してくるんです。
標語が、結果として加害者を助けてしまうことがある。ここを大人が知っておく必要があります。
代わりに伝えたい一言は「撮ったものは自分の手を離れる」
私が講演で一番伝えているのが、この一言です。
撮ったものは自分の手を離れる。
なぜこの言い方のほうが届くのか
写真や動画は、撮った瞬間は自分のものだと思えます。自分のスマホの中にあって、自分で消せるからです。
でも、誰かに送った瞬間に、それは相手のものになります。
相手のスマホに残ります。スクリーンショットも撮れます。クラウドに保存もできます。誰かに転送もできます。この先はもう、自分ではコントロールできません。
送らないでと頼んでも、消してと頼んでも、本当に消えたかどうかを確認する方法がないんですよね。
岡山の事件も同じ構造です。関係が終わった後も、相手の手元には動画が残っていました。
これは恋人でも、友達でも、家族でも同じです。今信頼できる人に送ったものが、将来どういう関係になるか分からない人の手元に残る、ということです。
判断基準を「相手」から「内容」に移す
ここが一番実用的なところです。
判断の基準を「この人は信頼できるか」「付き合っている相手だから大丈夫か」に置くと、関係が変わった瞬間に崩れます。関係に亀裂が入ることは、誰にでも起こります。
そうではなく、こう考えてください。
これが自分の手元から離れて、誰に見られても平気な写真・動画なのか。
この基準なら、相手が誰であっても同じ答えになります。相手を評価しなくていいので、子どもにとっても判断がしやすいんです。
保護者・先生にお願いしたい3つのこと
ここからは、大人側の対応の話です。
1. 送ってしまった子を責めない
これが一番大事です。
自画撮り被害に遭った子が親に言えない最大の理由は、「怒られそうだから」です。
「なんでそんなことをしたのか」と言われたら、次からは言わなくなります。言わなくなったら、大人は守れません。
だから、もし子どもが「送ってしまった」と打ち明けてきたら、最初の一言は「よく言ってくれた」にしてほしいんです。
責めるというのは、脅している側がやっていることです。送ってしまった子は被害者のはずなんですよね。だから怒らないでほしい。ちゃんと言ってくれてありがとう、と伝えたうえで、一緒に対策を考えてください。
私は先日、愛知県の高校で、生徒と保護者の方が一緒に参加される講演会をさせていただきました。そこでもこの話をしました。子どもが何かを間違えてしまったとき、失敗してしまったときに、一言で怒らないでほしい、と。
怒られるのが嫌だと思えば思うほど、子どもは1人で抱え込むようになります。
2. 「送るな」ではなく「手元から離れたらどうなるか」で教える
「知らない人に送るな」は、子どもにとっては他人事です。知っている人に送っているからです。
「撮ったものは自分の手を離れる」は自分事になります。実際に送っていて、実際に自分の手から離れているからです。
彼氏に送ったものは、別れた後も彼氏の手元に残る。この言い方のほうが届きます。
3. 「消せる手段がある」ことを一緒に知っておく
万が一拡散されてしまっても、削除を求める手段はあります。
警察の相談窓口、法務局の人権相談、そしてセーファーインターネット協会が運営する削除依頼の窓口「セーフライン」があります。
また、リベンジポルノ防止法では、公表した側が刑事罰の対象になります。
完全に消えたかどうかを確認するのは難しいかもしれません。でも、拡散されたら終わりではなく、拡散されてもまだできることがある。これを知っている大人が近くにいれば、すぐ動けますし、子どもも安心して言えます。
被害に遭う前に、大人のほうが知っておいてほしいんです。
SNSには危険性と可能性が同時に存在する
最後に、私の立場をお伝えしておきます。
私はSNSを、人生を豊かにする道具だと思っています。学校でも企業でも地方自治体でも、講演で必ず言うのは、SNSには可能性があるということです。
SNSで知り合った人と本当の友達になることもあります。普通に生きていたら出会えなかった人に出会えて、人生が豊かになることもあります。
ただ、「撮ったものは自分の手を離れる」という性質だけは、SNSの負の側面として残り続けます。コピーが簡単で、拡散が早く、消すのが難しい。どれだけSNSが発展して便利になっても、この性質は変わらないと思います。
だから私が伝えたいのは、SNSを使うなという話ではありません。
SNSを使うのなら、手を離れてしまうものと、手元に持っておくものを自分で分けておこう、という話です。
仮に誰かに頼まれて撮ってしまったとしても、送る前に「これは送ったらダメだ」と気づいて自分で消せれば、被害は発生せずに止まります。「撮るな」「撮らせるな」だけでは、この止まり方を教えられないんですよね。
まとめ
- 2026年9月、ストーカー行為の相手だった女性の動画をSNSのDMで送ったとして、42歳の男性がリベンジポルノ防止法違反の疑いで逮捕された
- リベンジポルノの相談件数は2023年に1,812件で7年連続増加。加害者は元交際相手を含む交際相手が48.6%、ネット上の知人が21.1%
- 2024年の児童ポルノ被害児童1,265人のうち約36%が自画撮り被害で、ほとんどが中学生と高校生
- SNS関係の被害の72%は子ども側の投稿がきっかけで、その約半分は趣味や日常などの普通の投稿
- 「知らない人に送らない」は、子どもにとって相手が知らない人ではないため届かない
- 「撮らせない」を目標にすると、撮ってしまった子が相談できなくなり、加害者に利用される
- 伝えるべきは「撮ったものは自分の手を離れる」。判断基準は相手ではなく、誰に見られても平気な内容かどうか
- 送ってしまった子への最初の一言は「よく言ってくれた」。拡散後も警察・法務局・セーフラインなど削除を求める手段がある
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