子どもが加害者になるのはどんなとき?SNSのなりすましと「みんなやってる」の危うさ

子どもとSNSの話は、ほとんどが「子どもを守る」話です。でも子どもは、被害者にも加害者にもなります。この記事を読めば、子どもがSNSで加害側に立つ2つの経路と、閉じた集団で「みんなやってる」が外の基準を上書きしていく構造、そして保護者と学校がそれぞれ何をすべきかが分かります。

「うちの子がそんなことをするわけがない」
「騙されないように気をつけなさい」
多くの家庭で交わされている言葉です。けれど、今のSNSでは加害側に回るのに技術がいりません。だから「できないから大丈夫」が成り立たないんです。

この記事では、2026年10月に報じられた高校の寮での事例を整理したうえで、犯罪がノリになっていく構造を解説します。

意外に思われるかもしれませんが、この件で注目してほしいのは手口ではなく「11人」と「30人以上」という人数です。1人の子がやったのではないところに、構造があります。

私は全国の学校・PTA・企業・地方自治体でSNSリテラシーやメディアリテラシーの講演を行っています。直近1か月でも小学校・中学校・高校で登壇してきました。その立場から書きます。

目次

何が起きたのか

報じられている事実

新潟県上越市の上越高校は、県外などから進学してきた生徒が多く寮を利用しています。

その寮の男子生徒を中心に11人が、SNSで女性になりすましてやり取りをし、相手の男性からお金を騙し取っていたと報じられました。金額は数百円から10万円を超えるものまであったとされています。

学校は警察に連絡し、保護者にも説明しています。

さらに、同じ寮では7月以降、21人が寮内での飲酒や喫煙をしていたことも報じられました。海でバーベキューをした際に、学校の近くの駐車場でも同様のことがあったとされています。

なりすましと合わせて関与した生徒は30人以上で、新潟日報は32人と報じています。

関わった生徒は自宅謹慎の指導を受けています。学校は取材に対し、生徒の指導と対応を優先しているとして、個人の特定につながる具体的な内容には答えていません。これは適切な対応だと思います。

なお、なりすましの具体的な手口は報道に詳しく出ていません。ですので、ここで再現はしません。

注目したいのは「11人」と「30人以上」という数字

この件で見てほしいのは、11人と30人以上という人数です。

1人の悪い子がやったのではありません。寮という閉じた集団の中で、人数と空気によって「みんなやっているし、いいだろう」という形で広がっています。

子どもがSNSで加害者になる2つの経路

子どもが加害側に立つ経路は、2つあると思っています。

1. 技術から入る経路

ハッキングや不正アクセスです。能力のある一部の子が、できるんじゃないかという好奇心でやってしまう。実際にやってしまう中高生もいますが、人数は限られます。

2. 空気から入る経路

今回はこちらです。

女性になりすますのに、技術はいりません。アカウントを作って、画像を用意して、女性のふりをしてメッセージを送る。中学生でもできます。

技術がいらないということは、ブレーキが気持ちだけということ

ここが怖いところです。

技術がいらないということは、広がるのを止めるものが技術力ではなく、気持ちだけだということです。

「それやばくないか」「ダメなんじゃないか」と思う気持ちだけがブレーキになります。

ハッキングは技術がないとできません。でも、女性になりすましてお金を騙し取ることは、簡単にできてしまう。

閉じた集団では外の基準が消える

そして寮という場所は、ブレーキがかかりにくい環境だったのだろうと思います。

寮はどういう場所かというと、同じ年代の子がずっと同じ建物にいます。保護者はいませんし、夜は先生も基本的にいません。仲間だけです。

そこに「誰かがやっている」という情報が入ってくる。

普通の環境なら「それ詐欺じゃん」となります。でも閉じた集団の中だと、「マジで、いくら」「そんなことできるの」という方向に話が進んでしまう。

「みんなやってる」「バレてない」「できるんだ」が揃うと犯罪がノリになる

閉じた集団の中では、外の基準が消えて、中の基準だけになりかねません。

外の基準なら、人を騙してお金を取るのは犯罪です。でも中の基準だけになると、「あいつもやっている」「みんなやっている」「バレていない」「できるんだ」になる。

この3つが揃うと、犯罪がノリになっていきます。

以前、闇バイトの入り口が友達のストーリーズだった件を取り上げました。紹介した時点で加害者側だという話です。今回も同じ構造だと思います。

入り口はおそらく、知らない人の勧誘ではなく、隣の部屋の仲間だったのではないか。報道には出ていないので断定はできませんが、複数人がやっていたということは、その可能性が高いと思います。

なりすましと飲酒喫煙は同じ空気から出た2つの症状

なりすましの11人と、飲酒喫煙の21人。これは別々の事件ではなく、同じ空気から出てきた2つの症状だと私は見ています。

「数百円から10万円超」という金額が示すもの

もう1つ見てほしいのが金額です。数百円から10万円超、という幅です。

数百円は、おそらく「ちょっとお願いしたらくれた」くらいの感覚だったのではないでしょうか。ジュース代やゲームの課金代になる程度です。

これが詐欺だと、本人もあまり思っていなかったかもしれません。

お金の送金は、今とても簡単になりました。災害のときに被害者のふりをして個人で募金を募る人が出てくるくらい、簡単になっています。

数百円がもらえた。じゃあもう少し。そうやってエスカレートして、10万円まで行ったのだと思います。

数百円なら大したことがないと思える。罪の意識が出てこない。そのまま大きくなっていって、気づいたときには警察に連絡される金額になっている。

金額で線を引かない。相手を騙したかどうか

子どもに教えるときに、ここがとても大事です。

10万円を騙し取ったら犯罪、ではありません。800円でも、騙してもらったなら犯罪です。

金額で線を引かない。大事なのは、相手を騙したかどうかです。

「騙される方が悪い」は騙す側の論理

もう1つ言っておきたいことがあります。

騙された男性について、「女性のふりに引っかかるほうが悪い」という空気がありますよね。投資詐欺でもロマンス詐欺でもチケット詐欺でも、そういう反応が出ます。

でも、それは違うと思うんです。

騙された側は被害者です。もちろんリテラシーは高めていきたいですし、だから私もこの活動をしています。でも被害者であることは変わりません。

高校生に女性のふりをされて、信じてお金を送った。その人がどんな気持ちで送ったかは分かりません。騙した側が高校生だったからといって、被害が軽くなるわけではありません。

騙される方が悪いというのは、騙す側の論理です。騙された側を笑ってしまったら、騙した側の味方になっているようなものです。みんなでリテラシーを高めていこうね、でいいじゃないですか。

保護者に伝えたい2つのこと

1. 「騙されるな」と同じ回数「騙すな」と言う

子どもとSNSの話をするとき、「知らない人に気をつけよう」「お金は送るな」はみんな言います。

でも「人を騙すな」「なりすますな」は、あまり言わないですよね。

うちの子がそんなことをするわけがない、と思うかもしれません。でも、今回の11人の保護者もきっとそう思っていたはずです。

なりすまして騙してお金をもらうことには、技術がいりません。だから「うちの子にはできない」が成立しないんです。できてしまう。だから言わなければいけません。

最近は、女性になりすまして稼ぐ方法といったコンテンツが有料で販売されてもいます。教える人まで生まれているわけです。稼いでいるのではなく騙しているのですが、そこが難しいところだなと思います。

2. 「みんなやってる」が出たら分岐点

子どもの口から「みんなやってるよ」という言葉が出てきたら、それは中の基準が外の基準を上書きし始めたサインだと思っています。

みんなって誰か。それは外の人が見たらどう見えるのか。

外の基準をちゃんと伝えられるコミュニケーションをしていてほしいです。責めるのではなく、叱るのではなく、考えてもらうこと。これが大切です。

学校・寮の管理者に伝えたい1つのこと

閉じた集団ほど、外の目を定期的に入れてください。

寮の問題を寮の中だけで解決しようとすると、中の基準で解決されてしまいます。

今回、学校が警察に連絡したのは正しい判断だと思います。外の基準が入るからです。

ただ、事件になる前に外の目が入るタイミングがあったのか、その仕組みがあったのか。ここがこれから問われるポイントだと思います。

子どもを守るとは、騙す側に立たないよう守ることでもある

最後に私の立場をお伝えします。

SNSは人生を豊かにする道具だと思っています。SNSがきっかけで夢が叶う人も、普通に過ごしていたら出会えなかった人と出会って人生が変わる人もいます。だから、子どもにSNSを禁止しろという話はしたくありません。

でもSNSは、騙される道具であると同時に、騙せる道具でもあります。しかも騙す側に回るのに技術がいりません。「やっていいんじゃないか」と思えた瞬間に、今日からできてしまいます。

そしてこの空気は、寮だけで生まれるものではありません。グループLINE、部活、クラス。いろいろな場所で生まれます。

「みんなやってる」「バレてない」「ちょっとだけ」。これが揃った場所では、子どもは被害者にも加害者にもなります。

子どもを守るというのは、騙されないように守るだけではなく、騙す側に立たないように守ることでもある。これからはそんな話もしていかなければいけないと思っています。

まとめ

  • 2026年10月、新潟県上越市の上越高校の寮で、男子生徒11人がSNSで女性になりすまし、男性からお金を騙し取っていたと報じられた。金額は数百円から10万円超
  • 同じ寮では7月以降21人の飲酒・喫煙も確認され、関与者は合計30人以上(新潟日報は32人と報道)
  • 子どもが加害側に立つ経路は「技術から入る」と「空気から入る」の2つで、今回は後者
  • なりすましに技術はいらないため、ブレーキになるのは気持ちだけになる
  • 閉じた集団では外の基準が消え、「みんなやってる」「バレてない」「できるんだ」が揃うと犯罪がノリになる
  • 金額は数百円から始まり罪の意識が出にくい。金額ではなく「相手を騙したかどうか」で線を引く
  • 「騙される方が悪い」は騙す側の論理。騙された側は被害者である
  • 保護者は「騙されるな」と同じ回数「騙すな」と伝え、「みんなやってる」が出たら分岐点と捉える
  • 閉じた集団ほど、外の目が定期的に入る仕組みが必要

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