回ってきた動画を見ただけでも処分される?職場SNSで「見た人」が当事者になる理由

職場で回ってきた不適切な動画は、「拡散しなければセーフ」とは限りません。実際に、見ただけの職員が厳重注意を受けた事例があります。この記事を読めば、なぜ見た人も当事者として扱われるのか、回ってきたときに取るべき3つの行動、そしてなぜこの種の事故が特定の職種で起きやすいのかが分かります。

「撮ったのは自分じゃない」
「送ったのも自分じゃない。見ただけだ」
そう思うのが自然です。けれど、見た時点で止められる立場にいた人は、何もしなかったことを問われることがあります。

この記事では、2026年10月に報じられた病院での事例を整理したうえで、投稿した人ではなく「見た人」の側から構造を解説します。

意外に思われるかもしれませんが、この動画が作られた背景には悪意よりも「よくある形式をいつも通りやった」という感覚があったと考えられます。そこが一番怖いところです。

私は全国の学校・PTA・企業・地方自治体でSNSリテラシーやメディアリテラシーの講演を行い、最近は企業研修やスポーツ選手向けの研修にも登壇しています。マネジメントをされている方にも読んでいただきたい内容です。

目次

何が起きたのか

報じられている事実

千葉県松戸市の千葉西総合病院で、2026年10月5日の夜勤中、女性看護師2人が入院している患者さんをベッドで無断撮影し、院内での自撮りと合わせて、夜勤の経過を時刻付きでつないだ約50秒の動画を作り、個人のSNSに投稿しました。

動画には「マジ暇」「つまんねえ」といったテロップがついていました。深夜の場面には医療機器につながれた高齢の女性患者さんのベッド脇の映像や、介助に触れる場面があり、患者さんの身体的な特徴や処置を面白がるテロップが重ねられていたと報じられています。

10月8日、病院は院長名義で第一報の謝罪文を公表しました。投稿の削除、職員への聞き取り調査の開始、プライバシーを侵害された患者さんへの対応、事実確認後の再発防止策の公表が示されています。

そして10月10日、看護師2人を懲戒解雇にしたと発表されました。院長は「医療に携わる者としてあるまじき内容がSNS上に投稿された。心より深くお詫び申し上げる」としています。

もう1人処分された人がいる

ここまでは、当然の処分だと感じる方が多いと思います。

でもこの件では、もう1人処分された人がいます。

グループ内で回ってきた投稿を閲覧していた別の女性看護師1人が、厳重注意を受けました。

撮っていません。投稿していません。拡散もしていません。見ただけです。

私はこれが、今回いちばん新しい部分だと思っています。「拡散しなければセーフ」が、職場では通用しない場合があるということです。

「見ただけ」で処分は厳しすぎるのか

厳しすぎないか、と最初は一瞬思いました。でも考えてみてほしいんです。

この看護師さんは、同じ病院の人です。回ってきた動画に、自分の職場の患者さんが映っている。介助の場面が映っている。からかうようなテロップがついている。

それを見た時点で、これは外に出してはいけないものだと分かる立場にいたわけですよね。

分かる立場にいて、止めなかった。あるいは報告しなかった。それが処分の理由だと私は考えています。

問題は見たことではなく、見た後に何をしたか

大事なのは、見たことが悪いのではないということです。回ってきたものを見てしまうのは仕方がありません。

問題は、見た後に何をしたかです。

拡散しなかった、というのは、同時に「何もしなかった」という意味でもあります。つまり、止めなかった。止められる立場、むしろ止めなければいけない立場の人が、止めなかった。

中高生でも職場でも同じ構造

これは病院の話に聞こえますが、他の場所でもそのまま起きます。

中高生なら、クラスのグループLINEに誰かの恥ずかしい動画が回ってくる。撮ったのは別の人で、送ったのも別の人。自分は見ただけ。

大人なら、職場のグループにお客さんや取引先を馬鹿にする動画が流れてくる。自分は見ただけ。

どちらも「見ただけだから関係ない」と思います。でも今回の病院の判断は、「見た時点であなたも対処ができたはずだ」というものでした。当事者のように扱われたわけです。

回ってきたときにやるべき3つのこと

身内や知り合いが、まずいと分かるものを出していた場合にやるべきことは3つです。

1. 送った人に「まずくないか」と伝える

これはまずくないか、消したほうがいいよ、と一言伝えること。これが最初です。

2. 上の立場の人に伝える

先生、上司、保護者。状況に応じて、伝えられる相手にちゃんと伝えることです。

3. 好意的なリアクションをしない

少なくとも「面白いね」「いいね」といったリアクションはしないでください。

スタンプ1つでも、送った側は「同意してくれた」「面白いと思ってくれた」と受け取ります。それが次もやろうという燃料になってしまうんです。

これは密告しろという話ではありません。見た時点で自分もアクションできる立場にいたなら、自分も巻き込まれている可能性がある、ということです。見た瞬間から、もうその物語の中にいます。

なぜこの動画が作られたのか

この看護師2人がひどい人間だった、という話では終わりません。人格否定はSNSに山ほど転がっていますが、そこを見ても何も分かりません。

見るべきは形式です。

形式そのものはどこにでもある

出勤から時刻をつけて、仕事の様子や仮眠の様子をつないでいく。「マジ暇」「つまんねえ」というテロップを入れる。

これは、SNSで普通に流れている形式です。「今日の仕事の1日」「夜勤あるある」といった動画は、看護師に限らずコンビニでも工場でも配送でも、ショート動画に山ほどあります。

形式自体は、もう存在しているんですよね。

「いつも通り」「よくある形式」が一番危ない

この2人は、そのよくある形式に自分の職場を載せました。

問題は、その職場が病院だったことです。「今日の仕事」を撮ったら、画角に患者さんが入った。構造としてはシンプルです。

おそらく本人たちには、公開しているという感覚が薄かったのではないかと思います。この形式は日記に近いので、自分の1日を記録しているだけ、身内に見せているだけ、という感覚だったのでしょう。

でも投稿した瞬間に、それは公開です。仲のいい人だけに見せているつもりでも、誰かが流せば外に出ます。

いつも通りだから、よくある形式だから、という感覚が一番危ないんです。悪意がなくても、形式どおりにやったら人の尊厳をさらすことになる。今回の件がよく示しています。

撮っていい場所と、撮ったものの行き先を先に決める

ここで言いたいのは「意識を高く持て」という話ではありません。撮っていい場所と、撮ったものの行き先を、最初から自覚しておくことです。

そもそも職場で撮らないほうがいいのですが、撮るとしても、休憩室や建物の外、機密情報が映っていない自分の机まで。

撮ってはいけない場所は、患者さんがいる場所、お客さんがいる場所、機密情報が映るものすべてです。

これは「気をつける」ではなく、場所で決めてしまうことです。

行き先も同じです。自分だけが見るのか、仲間に送るのか、公開するのか。行き先が公開なら職場のものは何も撮らない。仲間に送るものでも、機密情報やお客さんが映っているものはダメです。そこから流れていく可能性はゼロではありません。

他人の一番弱い場面に立ち会う仕事ほどリスクが高い

今回の事故が病院で起きたのは、偶然ではないと思っています。

他人の一番弱い場面に立ち会う仕事だったからです。

自分の日常が、相手の晒されたくない瞬間

医療、介護、保育、教育。こうした仕事は、患者さんや利用者さん、子どもたちの「人には見せたくない状態」に日常的に触れます。

介助の場面、泣いている姿、眠っている姿。それが日常になると、感覚が麻痺してしまうことがあります。いつもの光景になってしまう。

いつもの光景だから、撮っていても違和感がない。

でも撮られた側にとっては、一生で一番見られたくない瞬間かもしれません。

自分にとっての日常が、相手にとっては晒されたくない瞬間である。この落差が構造的に大きい職種ほど、リスクが高いんです。

職業の自覚から始める

だから、こうした職場のSNSリテラシーは「SNSの使い方」で止まりません。

自分の仕事がどんな人と、どういう場面に立ち会う仕事なのか。この職業の自覚から始めなければいけないと思っています。

私はスポーツ選手向けのSNSリテラシー研修もお受けしていますが、学校で話す内容とは全然違う構成になります。その立場ならではの気をつけるべきことがあるからです。

今回も、業界ならではの特徴を理解して自覚していれば、そもそも撮るという選択肢を取らなかったはずなんですよね。

まとめ

  • 2026年10月、千葉県松戸市の千葉西総合病院で、看護師2人が夜勤中に患者さんを無断撮影した動画を個人のSNSに投稿し、10月10日に懲戒解雇となった
  • あわせて、グループ内で投稿を閲覧していた別の看護師1人が厳重注意を受けた
  • 見たことが悪いのではなく、止められる立場にいて何もしなかったことが問われている
  • 「拡散しなければセーフ」は、職場では通用しない場合がある
  • 回ってきたら、送った人に伝える/上の立場の人に伝える/好意的なリアクションをしない
  • 動画の形式自体はどの職種にもあるもので、「いつも通り」「よくある形式」という感覚が一番危ない
  • 撮っていい場所と撮ったものの行き先は、意識ではなくルールとして先に決める
  • 他人の一番弱い場面に立ち会う職種ほど、自分の日常と相手の晒されたくない瞬間の落差が大きく、リスクが高い

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