SNSの誹謗中傷とは?デマ拡散・なりすましなど7つの具体例で考える

「誹謗中傷はやめましょう」が届かないのは、ほとんどの人が「自分は悪口など書いていない」と思っているからです。この記事では、ある事務所の声明が具体的に列挙した7つの類型を1つずつ確認し、自分が知らないうちに加わっていないかをチェックできるようにします。

「悪口なんて書いていない」
「聞いた話を共有しただけで、自分が言ったわけではない」
誹謗中傷という言葉はとても抽象的です。だから、自分のことだと思えない。結果として、注意喚起がまったく届かないまま、同じことが繰り返されます。

この記事では、2026年9月に出されたある事務所の声明を題材にします。この声明は誹謗中傷を7つに分けて具体的に列挙しており、そのまま学校で配れるレベルの整理になっています。抽象論ではなく、照らし合わせられる形でお伝えします。

注目してほしいのは4番目の類型です。「〜らしい」という言い方で未確認の情報を広めること。これは、自分は悪口を書いていないと思っている人がもっともよくやっていることです。

私は全国の学校・企業・自治体でSNS・デジタルリテラシーの講演を行い、誹謗中傷についてもお話ししています。今回はこれを特定の事務所の話ではなく、SNSを使う全員のチェックリストとして扱います。


目次

背景を先に整理します

2026年9月22日と23日、埼玉で行われた音楽イベントに、あるアーティストの方が大トリで出演しました。

そこで歌った曲の選曲について、一部のファンから不満が出ました。なぜこの選曲なのか、最後に知らない曲を歌われた、といった声です。

ここまではイベントへの感想です。ところがそこから、本人への人格攻撃、別人の写真を本人として拡散する行為、未確認情報の拡散へと広がっていきました。

9月26日、所属事務所が声明を出します。ポイントは3つです。

  • ネット記事、SNS、掲示板で度を超えた誹謗中傷や拡散が多く見られること
  • 具体的に7つの行為を列挙したこと
  • 警察・顧問弁護士・関係機関と連携し、発信者情報開示請求も使って責任を追及すること

イベントがあってから声明が出るまで、3〜4日です。その短い期間に、これから挙げる7つが全部起きたということになります。

いちばん大事な前提: 「選曲への不満」と「本人への攻撃」は別物

「あの選曲は合っていなかった」。これは意見です。

「だからこの人は◯◯だ」。これは行き過ぎです。

事務所がわざわざ7類型を出したのは、まさにこの意見と攻撃の線引きを具体的に示すためだと思います。

誹謗中傷の7類型を1つずつ見る

1. SNS上での直接的な誹謗中傷・攻撃

いちばん分かりやすいものです。本人に向けたひどい言葉。誰が見ても誹謗中傷です。

ここに入る人には、自覚があります。

2. 別人の写真を本人の容姿として拡散する

「この人の素顔はこれです」と、まったく関係ない人の写真を流す行為です。

これは本人への攻撃であると同時に、写真を使われた別人への加害でもあります。何の関係もない一般の方が、勝手に誰かの素顔にされてしまうわけです。

3. 加工した画像を証拠として拡散する

「この人がこう書いていた」と言って、スクリーンショット風の画像を作って流す行為です。

メッセージアプリの画面も、SNSの投稿画面も、いまは簡単に作れてしまいます。本人が書いていないものを、書いたことにする。完全にデマの製造です。

4. 「〜という情報がある」「〜らしい」という言い方で未確認情報を拡散する

ここが今回いちばんお伝えしたいところです。

「◯◯らしいよ」「そういう話があるらしい」。書いている本人は断定していません。聞いた話を書いただけだと思っています。悪口を書いた自覚がありません。

私自身、人からまた聞きしたことについて、「〜らしい」という前提で意見を言っていたことがあります。今思えば、自分も加担していた可能性があると反省しています。

問題は、読む人にとって「らしい」は消えて、中身だけが残るということです。しかも「らしい」という言い方は、責任を取らなくていい形になっているので、いちばん拡散しやすい。

以前の記事で、数秒の切り抜きが1億回以上表示された件を取り上げました。あれもまさにこの4番で広がりました。「◯◯らしいよ」「前から有名らしいよ」。誰も断定していないのに、中身だけが信じられていく。

事務所がこれを誹謗中傷の一類型として明記したのは、大きいことだと思います。「らしい」は免罪符ではない、と公式に言われたということです。

5. 事務所関係者への誹謗中傷・攻撃

本人ではなく、スタッフやマネージャー、事務所への攻撃です。

本人には言えないから周りに言う。それは本人を守っている人を攻撃しているだけで、やはり1つの攻撃です。

6. 本人のふりをしてアカウントを作る

本人が言っていないことを、本人として発信する行為です。

加工画像と同じで、「本人が言った」という嘘を作ることになります。これも明確にだめだとされています。

7. 思想信条や性格と結びつけた非難

これがいちばん難しい枠だと思います。

「この曲は好きじゃない」は感想です。人それぞれ違うものですし、本人の目に入る場所で言う必要はないとしても、言ってはいけないものではありません。

でも、「この曲を歌うということは、この人はこういう思想だ」「この選曲をするということは性格が悪い」。これは作品の評価ではなく、作品を材料にした人格攻撃です。

今回の件はまさにここでした。選曲が合っていなかったは感想。その選曲は誰かを馬鹿にしている、は感想の域を超えています。

7つのうち、2から7は「自覚のないまま」やってしまう

ここが本質です。

1は自覚がある人が多いと思います。でも2から7は、「自分は誹謗中傷をしていない」「誰も攻撃していない」と思いながら、やってしまえるものです。

拡散しただけだ。「らしい」と書いただけだ。作品の感想を言っただけだ。本人はそう思っています。

だから「誹謗中傷をやめましょう」では届きません。自分のことだと思っていないからです。

けれど類型で示されると、「これはやったことがあるかもしれない」と自分の行動に照らし合わせられます。私も講演でこの類型の話を扱っていきたいと思いました。

「発信者情報開示請求」という言葉について

声明の中で、もう1つ見ておきたいのがこの言葉です。

簡単に言えば、匿名で書いた人を法的手続きで特定することです。プロバイダやSNSの運営会社に、投稿した人の情報を出してくださいと請求します。

昔はとても時間がかかりましたが、法律が整備され、以前よりは短い手続きでできるようになりました。もちろんハードルは残りますが、開示請求から損害賠償まで至ったケースは珍しくありません。

つまり、匿名はもう匿名ではありません。「らしい」と書いた投稿も、加工画像を拡散した投稿も、記録が残っていて辿れます。

なお、日本ではSNSの年齢確認を義務付ける議論が進んでいます。身分証で本人確認をする仕組みになれば、投稿と個人の紐づきがより強くなる可能性もあり、今後の動向は気になるところです。

これは怖がらせるために書いているのではありません。自分の投稿には自分の名前がついている、という当たり前のことを思い出してほしいのです。

私たちがすべき3つのこと

1. 「らしい」をつける前に止まる

「〜らしい」と書きたくなったら、それは自分も確認できていないというサインです。それなら書かないほうがいい。

「らしい」をつけても、責任は消えません。

2. 作品の感想と、人の評価を分ける

「この曲は好きじゃない」は感想です。「だからこの人は◯◯だ」まで行かないこと。

範囲を広げない。感想は感想で止める。

3. 拡散する前に、元を見る

ここまで挙げたものは、元を確認すれば分かるものが多いのです。別人の写真なのか、加工画像なのか、「らしい」だけの話なのか。元を見れば、拡散する前に止まれます。

最後に

私は、この選曲がどうだったかには興味がありません。それはイベント運営とファンの話で、意見が割れてもいいことです。

気になっているのは、意見が割れたときに人格攻撃やデマに変わるスピードです。数日のうちに、7つの類型が全部起きてしまった。

だからこの話を、特定の誰かの件として忘れてしまうのではなく、7つを覚えて帰ってほしいと思います。

「らしい」と書きそうになったら、この記事を思い出してください。

まとめ

  • ある事務所が誹謗中傷とデマに法的措置を表明し、その内容を7つの類型に分けて具体的に列挙した
  • 直接的な攻撃、別人の写真の拡散、加工画像、「〜らしい」での未確認情報の拡散、関係者への攻撃、なりすまし、作品と人格を結びつけた非難
  • 1は自覚があるが、2から7は「自分は攻撃していない」と思いながらやってしまえる
  • 「らしい」は免罪符ではない。匿名も辿れる
  • 「らしい」の前に止まる。感想と人の評価を分ける。拡散前に元を見る

抽象的な言葉では、誰も自分のことだと思えません。具体的な7つに照らし合わせてみてください。


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