SNSで批判的なコメントが来ることは、嫌われていることとイコールではありません。むしろ関心が高いからこそ、最初に否定が出ます。この記事を読めば、人の感情がたどる順番と、批判が来たときに慌てて投稿を消してはいけない理由が分かります。
「投稿したら批判的なコメントが来て、怖くなってやめてしまった」
「否定されるのが嫌で、もう発信したくない」
SNSの相談で、こうした声をよく聞きます。批判が来た時点で「自分は嫌われた」「この投稿は失敗だった」と受け取ってしまう方が、とても多いのです。
この記事では、2026年9月に発表された交通系ICカードの新キャラクター投票を題材に、最初は猛反発だったものが数日で応援に変わっていった流れを追います。感情がどう動いたかが見えると、批判の受け取り方そのものが変わります。
面白いのは、最初に反発した人たちが、そのキャラクターを嫌っていたからではないという点です。むしろ逆で、好きだったから反発しました。ここに、批判というものの正体があります。
私は全国の学校・企業・地方自治体でSNS・デジタルリテラシーの講演を行っています。今回は炎上を止める話ではなく、批判が応援に変わっていく過程を、発信する人が使える形で整理していきます。
何が起きたのか
2026年9月8日、JR東日本がSuicaの新キャラクター候補3案を発表し、ネット投票を開始しました。
長年親しまれてきたペンギンのキャラクターは2027年3月末で卒業し、新キャラクターは投票で決めるという発表です。投票期間は9月8日から23日まで、1人1回。結果はSuica誕生25周年にあたる11月18日に発表されるとされました。
発表直後のSNSは、困惑と反発でした。「ペンギンを返して」「今のままで良かったのに」「変える必要があるのか」という声が大量に出ました。
過去の記憶が反発を大きくした
ここにもうひとつ、過去の出来事が重なりました。
2018年、JR東日本が新しい駅名を公募したとき、投票で上位だった案ではなく、130位だった案が採用されたことがありました。そのため今回も「投票は形だけではないのか」という不信が出たのです。
数日で空気が変わった
ところが時間が経つにつれ、様子が変わってきました。
3案すべてを応援する「箱推し」の人が増え、「どれも可愛くて選べない」というコメントが目立ち始めます。ファンによるイラストも活発になり、当初もっとも厳しく言われていた案の人気が急上昇しました。「見慣れてきたら可愛く見えてきた」という声が出てきたのです。
9月17日のITmediaの記事は、この流れを大阪・関西万博のキャラクターと同じ構造だと分析しています。最初は厳しい言葉が並んでいたのに、見慣れるうちに愛着が湧き、最後には大人気になった、というあの流れです。
なぜ最初に反発が出たのか
ここが本題です。
最初に反発が出たのは、そのペンギンが嫌いだからではありません。逆です。好きだから反発したのです。
25年間、毎日改札で見てきた。カードにもグッズにも広告にもいた。愛着があります。だから「変える」と言われた瞬間に最初に出てくる感情は「嫌だ」になります。
つまり、否定の量は愛着の量に比例していました。
無視がいちばん遠く、批判はその次に近い
ここをSNSの発信に置き換えると、大事なことが見えてきます。
否定的なコメントが来るということは、その投稿に反応するだけの関心があったということです。本当にどうでもいい投稿には、批判すら来ません。スルーされます。
無視がいちばん遠い。批判はその次に近い。そして共感は、批判の向こう側にあります。
批判が来た時点で「嫌われた」と判断してしまうと、いちばん遠い状態から一歩近づいた段階を、失敗だと誤読してしまうことになります。
感情には順番があります
この件でもうひとつ大事なのは、時間です。発表直後は反発だったのに、数日経つと「推し」と言い始める人が出てきました。
人の感情には順番があるのだと思います。
新しいものを見たとき、人はまず「知らないから嫌だ」「怖い」となります。よく分からないもの、理解できないものを拒みたくなるのは、生き物として自然な反応で、変えられません。
けれど何回か見ているうちに、「知らない」が「知っている」に変わります。知っているになると怖さが消え、「悪くないかも」になり、「可愛いかも」になり、「推し」になる。
知らない → 嫌だ → 見慣れる → 悪くない → 好き。この順番を、多くの人がたどります。
SNSが残酷なのは、最初の段階だけが大声で拡散されること
問題はここです。
「嫌だ」は発表から数時間で何万件も出るのに、「見慣れて好きになった」は数日から数週間かけて少しずつ増えます。
だから発表直後のSNSだけを見ると、大失敗に見えてしまうのです。実際には、まだ最初の段階しか観測できていないだけなのに。
ここから学べる3つのこと
1. SNSの反応を、最初の数時間で判断しない
これはSNS運用の教訓として非常に大事です。
投稿して批判が来た。そこで慌てて消したり、謝ったり、方向転換したりすると、「見慣れて好きになる」段階に行く前に、自分で終わらせてしまうことになります。
JR東日本は、反発が出ても投票をやめませんでした。3案をそのまま出し続けた。だから見慣れる時間が生まれ、空気が変わったのです。
「傷つけた批判」と「新しいものへの批判」を見分ける
ここは区別が必要です。
前回の記事で取り上げたマスコットの件のように、誰かを傷つけてしまった場合は、すぐに謝るべきです。
一方、新しいものへの反発は、誰かを傷つけたわけではありません。これは待ってもいい批判です。後になって評価される可能性があるからです。
傷つけた批判はすぐ動く。新しいものへの批判は少し待つ。この見分けができると、対応を間違えにくくなります。
2. 選ばせると、人は当事者になる
今回、JR東日本は「新キャラはこれです」と決めて出すのではなく、「3案から選んでください」という形にしました。これが大きかったと思います。
決められたものには文句しか言えませんが、選べるものには応援ができます。「A案がいい」と言った瞬間に、その人はA案の味方になります。批判していた人が「この中ならA案かな」と当事者に変わるのです。
SNSでも同じです。「これが正解です」と出すよりも、「あなたはどう思いますか」と出したほうが、人の姿勢が批判から参加に変わります。反応したくなる形で出せているか、がポイントです。
3. 投票が形だけだと、全部崩れる
ここは釘を刺しておきたい点です。
駅名の公募のとき、投票で130位だった案が採用されて「投票は形だけだった」という不信が残りました。その記憶が、今回の反発を大きくした面があります。
選ばせるなら、選んだ結果を尊重してほしい。ここを裏切ると、次から不信が溜まっていきます。参加してもらう仕組みは、結果を尊重して初めて機能します。
最初の反応が、その投稿の価値を決めるわけではない
最後に私自身の話をします。
毎日発信していれば、否定的な反応が来ることもあります。うわっとなる瞬間はありますが、すぐ切り替わります。
この件を見て思ったのは、最初の反応がその投稿の価値を決めるわけではないということです。
「叩かれるかも」「こんな風に思う人がいるかも」と身構えていても、実際の反応は想像よりずっと優しいことがほとんどです。
誰かを傷つけてしまった場合は対応が必要です。でもそうでないなら、投稿を消さずに、次を出す。また出す。慣れてもらう。「こういう人なんだな」と分かってもらえればいい。
そうしているうちに、批判っぽく聞こえていた言葉が「この人は言うことが一貫しているな」に変わってきます。信頼は、そうやって作っていくしかないのだと思います。
批判が多いことは、嫌われていることとイコールではない。そこで止まらず、「関心がある」と受け取れるようになると、発信はもっと肩の力を抜いてできるようになります。
まとめ
- 新キャラクターの発表直後は猛反発だったが、数日で「箱推し」「どれも可愛い」という方向に変わった
- 批判が多いことは嫌われていることとイコールではない。関心が高いからこそ最初に否定が出る
- 感情には順番がある。知らない → 嫌だ → 見慣れる → 好き。SNSは最初の段階だけが大声で拡散される
- SNSの反応を最初の数時間で判断しない。傷つけた場合はすぐ対応、新しいものへの批判は少し待つ
- 選ばせることで批判者も当事者になる。ただし選ばせた結果を裏切ると全部崩れる
批判が来たその日に結論を出さないでください。数日後に同じ景色を見ると、まったく違って見えることがあります。
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