オーストラリア政府が2026年9月8日に発表した「SNSのアルゴリズムをオフにする権利」とは、TikTokのおすすめやInstagramの発見タブ、Xのおすすめタブのように「あなたの興味に合わせて勝手に次の投稿を流してくる仕組み」を、使う側が使うか使わないか選べるように企業へ義務づける法律の方針です。この記事を読めば、何が決まったのか、なぜ「禁止」ではなく「選ぶ権利」なのか、そして法律を待たずに今日から家庭でできることまで分かります。
「子どもがTikTokやYouTubeをやめられない」
「やめなさいと言っても聞かない」
「気づいたら自分も1時間スクロールしていた」
こうした悩みは、意思の強さや育て方の問題として語られがちです。
この記事では、オーストラリアの発表内容を整理したうえで、「SNSがやめられないのは意思ではなく構造の問題である」という視点から、なぜ「選べること」が大事なのか、アルゴリズムをオフにすると体験がどう変わるのかを解説します。
意外に思われるかもしれませんが、実は今のSNSでも、おすすめを「ある程度」自分で切ることはできます。ただし、アプリを開くたびにおすすめへ戻されてしまう。オーストラリアの法律は、この「隠された選択肢」を表に出させようとしているのです。
私は全国の学校・企業でSNS・デジタルリテラシーの講演を行っている立場から、一貫して「禁止よりも、適切に使える力を育てよう」と伝えてきました。今回のニュースは、その考え方と同じ方向を向いた施策だと感じています。
オーストラリアは何を決めたのか?「アルゴリズムをオフにする権利」の中身
まず、発表された内容を整理します。
オーストラリア政府は2026年9月8日、SNSの利用者が「自分の関心に基づいて投稿を優先表示するアルゴリズム」を選ぶか拒否するかを決められるようにしなさい、という方針を発表しました。企業はその選択肢を提供する義務を負います。
守らなかった企業への罰金は、最大で1億9200万オーストラリアドル、日本円でおよそ120億円とされています。対象はSNSだけではなく、メッセージアプリ、ゲーム、AIチャットボットまで含まれています。法案は年内に提出される予定とのことです。
背景として説明されていたのは、大きく2つです。
1つ目は、昨年12月に導入した「16歳未満のSNS禁止」が、回避されまくっているということ。年齢認証を親の顔で通してしまう、対象外のアプリに移る、といった形で、利用率は一時的に下がったものの、ほぼ元通りになってしまった。そのため追加の対策が必要だと判断されたわけです。
2つ目は、アルゴリズムが結局は長時間利用を招いており、子どもだけでなく大人の心身にも悪影響がある、という認識を政府が持っていることです。
なお、EUではすでに同じような「拒否する権利」が認められており、オーストラリアはそれに続く形になります。
なぜ「禁止」ではなく「選ぶ権利」なのかが、今回いちばん大事な点
ここが、私が今回のニュースでいちばんお伝えしたいところです。
昨年のオーストラリアは、「16歳未満は使うな」という方針でした。SNSを危ないものとして扱い、入り口を閉じる発想です。
一方、今回はまったく違います。「アルゴリズムを切れるようにしろ」というのは、SNSを使うものとして認めたうえで、使い方を選べるようにするという発想です。
私はずっと、SNS教育について「禁止よりも、適切に使える力を育てよう」と言ってきました。実際に禁止をやってみた国が、その効果の限界を認めて、次に「選ぶ権利」という方向へ舵を切った。この変化には、大きな意味があると思っています。
SNSがやめられないのは「意思が弱いから」ではない
では、なぜ「選べること」がそれほど大事なのでしょうか。
SNSがやめられないのは、実は意思が弱いからではありません。子どもたちの意思が弱いとか、怠けているとか、自分はダメなんだとか、そういう話ではないのです。
アルゴリズムは、あなたが一番反応するものを、一番反応するタイミングで出してきます。そもそも人間の意思で勝てる設計になっていません。世界中の天才たちが「どうすれば見ている人が依存してくれるか」「どうすれば次の1本を見てくれるか」を毎日研究しているわけです。それに個人が根性で勝てる、という甘い話ではありません。
だからこそ、「やめなさい」と言っても無理なのです。やめたくてもやめられないのですから。変えるべきは本人の意思ではなく、アルゴリズムを切れるようにするという「構造」のほう。オーストラリアはそこに気づいたのだと思います。
アルゴリズムをオフにすると、体験は何が変わるのか
実際にアルゴリズムをオフにすると何が起きるかというと、簡単に言えば「おすすめ」がなくなり、自分がフォローしている人の投稿が時間順に並ぶ状態になります。
これは地味に聞こえますが、体験としてはまったく違います。
おすすめには終わりがありません。スクロールすればするほど新しいものが出てくるので、気づいたら1時間、ということが起きます。
ところが、フォロー中の人の投稿だけを時間順に見ていると、どこかで終わるのです。「フォローしている人の投稿は全部見終わった」という瞬間が来る。そこでスマホを置けます。
以前、高校生を対象にした調査で、「メンタルへの負担が軽いSNS」が選ばれているという話を取り上げました。アルゴリズムをオフにすることは、まさにその「心の負担を軽くする」行為なのです。
私は、SNSは人生を豊かにする道具だと考えています。ただし、それは「自分が使っている」ときの話です。アルゴリズムに使われているときは、道具を使いこなしているのではなく、私たち自身が広告を見せるための道具になってしまっている。アルゴリズムをオフにすることは、その主導権を取り戻すことにほかなりません。
実は今でも「ある程度」おすすめは切れる
オーストラリアの法律の話を聞くと、「日本には関係ない」と思われるかもしれません。しかし、今のSNSでも、ある程度は自分でおすすめを切ることができます。
・X:タイムラインを「おすすめ」ではなく「フォロー中」のタブにすれば、フォローした人の投稿だけが表示されます
・Instagram:フィードの表示を「フォロー中」や「お気に入り」に変えられます
・TikTok:「おすすめ」ではなく「フォロー中」のタブに切り替えられます
・YouTube:再生履歴をオフにすると、おすすめが出にくくなると言われています
いずれも、設定や表示を少しいじるだけで変えられるものです。
ただし、問題があります。アプリを開くたびに「おすすめ」に戻されてしまうのです。SNS側は私たちに依存してほしいので、そういう設計になっている。だから毎回やり直さなければならない。
オーストラリアの法律は、この選択をデフォルトで選べるように企業に義務づけるものです。今は後ろに隠されている選択肢を、表に出させる。そう理解すると、この法律の意味がよく分かると思います。
法律を待たずに今日からできること:まず1週間「フォロー中だけ」で過ごす
法律を待たなくても、今日からできることがあります。
まず1週間、「おすすめ」ではなく「フォロー中」だけを使ってみてください。それだけで、スマホを見ている時間は減るはずです。
保護者の方へ:「やめなさい」ではなく「選ばされているよ」と伝える
保護者の方にお伝えしたいことが1つあります。
子どもがTikTokやYouTubeをやめられないとき、「意思が弱い」と言って怒ってしまう人は多いと思います。しかし、ここまで述べてきた通り、これは意思の問題ではなく構造の問題です。世界中の天才たちが作ったアルゴリズムに、中学生が根性で勝てるはずがありません。
だから、子どもたちに教えてほしいのは「やめなさい」ではなく、「おすすめは、あなたが選んでいるのではなく、選ばされているんだよ」ということです。
具体的には、こう聞いてみてください。
「今見ているその動画、自分で探したの? それとも勝手に出てきたの?」
この問いかけは、とてもよく効きます。子どもたちは、自分で選んでいると思っているからです。「あれ、これ自分で選んでない」と気づいた瞬間に、少し目が覚める。
そのうえで、「フォロー中だけ見るモード」を一緒に設定してみてください。禁止ではなく、まずはモードを変える。オーストラリアが国レベルでやろうとしていることを、まずは家庭レベルで実践してみてほしいのです。
アルゴリズムは悪ではない。ただ「選べない」のはおかしい
最後に、私自身の立場をお伝えしておきます。
私はSNSで発信している側の人間なので、正直に言えば、アルゴリズムの恩恵も受けています。フォローしている人しか見ないアルゴリズムだったら、伸びなかった動画はきっとあるでしょう。おすすめに乗ったから、私のことを知らない人にも届いた。そういうことは何度もありました。
だから、アルゴリズムは悪だと言いたいわけではありません。
ただ、使う側の人が選べないというのは、やはりどこかおかしいのではないか、とも思うのです。自分の時間が、自分の意思ではなく企業の設計によってハックされている状態。それを「便利」と呼ぶのは、少し違うのではないでしょうか。
オーストラリアの法律は、まさに「便利」と「選べる」を両立させようとしています。禁止ではなく権利として、SNSをこれからも使うことを前提に、いかにうまく付き合っていくかという方向を向いている。私は、この方向が日本でも議論されていいと思っています。
日本では、どちらかというと「禁止」の方向に傾きそうな空気を感じていて、そこは少し不安です。可能であれば、「本当にSNSを禁止して意味があると思っているのか」を、一度真剣に考えてみてほしいと願っています。
まとめ:明日からできることと、大人としてのスタンス
今回の内容を整理します。
・オーストラリアは「アルゴリズムをオフにする権利」を法律にする方向を発表した。罰金は最大で日本円にして約120億円
・昨年の「禁止」から、今年は「選べる」へ。SNSを使うものとして認めたうえで、使い方を選ばせる発想に変わった
・SNSがやめられないのは意思ではなく構造の問題。おすすめに終わりがないから。子どもを責めないでほしい
・今でも「フォロー中」タブや履歴のオフで、おすすめが延々と流れてくる状態はある程度防げる。まずは1週間試してみる
・子どもには「やめなさい」ではなく、「振り回されているよ」「選ばされているよ」と教えてあげる
大人の側がまず、自分のスマホの「おすすめ」と「フォロー中」を切り替えてみる。その体験があってはじめて、子どもへの声かけにも説得力が出てきます。禁止ではなく、選ぶ。ここからSNSとの付き合い方を考えていきたいと思います。
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